創造、想うままに
放課後、五人揃って教室を出たところで、翠雨を見付けた。雹が翠雨へと駆け寄る。
「翠雨は家は何処なの?」
「君たちも知っているケーキ屋だよ。二階が家だ」
「へーぇ。じゃあ反対方向か」
「そうだな」
校門を出てすぐに別れる。
「また明日。会う機会があれば、な」
「おう」
翠雨は颯爽と髪を靡かせ、背を向けた。ああ、いつどこで見ても、見惚れてしまいそうになる。
「気にせず先に帰ってて。おーい、翠雨」
雹が翠雨を呼び止めるように声を掛け、後を追う。
「帰るか」
翠雨と雹から視線を逸らし前を向くと、時雨と紗奈の姿が見えなかった。マカと二人きりにしてくれたのだろうか。
マカとともに帰路につく。
「なあ、唐突だけどさ。真人間と少し狂った人間と、狂気に塗れた人間、この三つの中で、唯一人とこの世に取り残されるなら、どれがいい?」
屋上で翠雨に問われた質問をマカに問う。
「心理テスト?」
「いや、よく分からん」
「うーん…真人間かな」
マカはそう言うだろうと思った。翠雨の気持ちが少し分かったような。
「こう答えたらどうなるの?」
「分からん」
「分からないんだ…そう君はどれなの?」
「少し狂った人間」
「へぇ…」
マカが物珍しそうに見てくる。そうだよな。普通なら真人間を選ぶ筈なんだ。
でも俺は違う。翠雨も違った。
俺の周りで真人間と答える奴はマカぐらいだと思う。じゃあ俺の周りでまともな奴はマカだけか?真人間と共に居たいと言うのはまともなのか?
この問いには答えなんて無いんだ。そして俺にはこの質問の意味が分からない。
でも、考えてしまう。意味を、真意を。其処に何かがあるんじゃないかと。
「ま、深い意味は無いよ」
そう言っている間にマカの家に着く。
「また明日」
「うん、またね」
マカが家に入るまでを見届け、歩き出す。
「何なんださっきの質問は」
時雨たちが姿を現す。
「さあ。分からん」
翠雨に会ったことは話さず、この話をはぐらかす。程なくして帰宅。
「あ、お帰りです」
霙と陽葉がリビングで出迎えてくれた。
家族分の鍵を、俺、雹、霙、プラス合鍵一つを陽葉が持っているので、雹と霙と陽葉は我が家に自由に出入り出来る。
幽霊たちは壁抜け出来るので雹たちだけではないが。
「お姉ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「翠雨に付いていった。直ぐ戻ってくるんじゃないかな」
着替えを済ませた頃、玄関のドアが開く音が聞こえた。
「ただいまー」
元気な声が聞こえる。
「お帰りお姉ちゃん」
「早かったな」
「そう?」
雹は制服を脱ぎながらリビングに入ってきた。
「お風呂はっいるぅ」
「私も一緒に入るー」
「よーし、禿げ上がるくらい洗ってやる」
鞄をリビングに放り投げて風呂場へ向かう雹、その後ろを子猫のように陽葉がついていく。
陽葉は一昨日から雹と一緒に風呂に入り、猫状態で躰を洗ってもらってるらしい。
「お前らはいいのか?」
「ああ、私はいい」
「私もいいです」
時雨と紗奈は入らない、か。
「飯の用意でもしとくか。紗奈、手伝ってくれ」
「分かりました」
「あ、手伝います」
気を遣わなくていいのに。
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白い毛の小柄な猫は、私に抱かれて気持ちよさそうに声を上げている。
「ココが気持ちいいのか?」
「にゃあ」
「お前はにゃーとかしか言わないな」
「にゃー」
猫だけど式神だからか、水は嫌いじゃない。躰を洗ってやってる時も大人しい。
「肉球柔らかいなぁ」
「なぁー」
「お前もしかしたら喋れるんじゃないか。こんにゃろ」
小さい躰を隅々まで洗う。この躰を洗っても人間状態の躰は綺麗になってるらしい。正直理屈が分からないけど、残霊師や霊力に説明も付けられないので、そういうことにするしかない。
「さ、終わったよ」
「にゃ」
タイルの上に降ろしてやる。
「今度は私が洗ってあげるね」
「ん」
人間状態になった陽葉に背を向ける。
「雹の肌も十分柔らかいと思うけど」
「お前の肉球程じゃないだろ」
十二歳の肌から衰えないんだ、瑞々しさがあるのは否定しない。
腕も脚も、お腹や胸も、私が陽葉にやったように、隅々まで洗ってもらう。
「頭も洗うね」
「あの、いつも言い忘れるんだけど、次からでいいから頭から洗ってね」
「あ、うん」
「後、頭洗う前に躰流して」
躰の泡を流し、頭も洗ってもらう。
「はいお疲れ。猫になって」
猫状態になった陽葉の躰を軽く拭き、タオルを巻いて放す。
「後は霙に拭いてもらいな」
「にゃーう」
風呂場から出て行く子猫。彼奴、猫状態なら裸なんだよな。
「だから何、っていうね」
私も髪と肌に付いた水分を拭き取り、風呂場を出る。
――服を着に戻るのは数秒後の話。
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「雹の髪って何で銀色なんだ?」
雹が頭を拭いてくれと言うので、飯作りは紗奈と霙に任せて拭いてやっている。
「ん、後遺症みたいな、何て言うんだろ」
「昔は黒かったよね」
霙が言う。妹である霙は黒い。
此処に居る六人の内、紗奈と雹と陽葉以外は黒髪。紗奈は暗い茶髪、陽葉は猫状態と同じ白のような銀色。
「奥義取得辺りからかな、変わったのは」
「反動で?」
「そんな感じ」
太陽のような、月のような、星の光にも見える、不思議な髪色。
「学校で何か言われたりしなかったのか」
「先生には言われてたよ。自毛だって言ったら言われなくなったけど。生徒たちは私に近付こうとしなかったしね。とある二人を除けば」
「二人?」
「ん、私はあんまりみんなと関わりたく無かったからさ、この髪色も敬遠させるにちょうどいいと思ってたんだけど。そいつらは「そんなことどうだっていい」って言って私に話し掛けてきたんだ」
雹は遠い昔のことのように話す。
「そういやあの二人は大学行ったんだよねぇ…元気してるかな」
「会わないのか?」
「二人は忙しいだろうからね。偶然会うくらいでちょうどいいよ」
雹は「ありがと」と呟きタオルを洗濯機の前へ持っていった。




