出会、幸せの欠片
「よかったら、今日みんなで一緒にケーキ食べに行きませんか?」
翌朝、朝食を食べ終えた時に霙が提案した。
ちなみに、陽葉は出来るだけ邪魔にならないようにしているのか基本的に猫へと变化し、陽の当たるところで寝ていることが多い。夏の日差しは暑いだろうけど、クーラーを点けているのでちょうど心地よいのだろう。
「お、いいな」
俺はその提案に乗る。断る理由もない。
「時雨と紗奈も食べるか?」
「いや、私はいい」
「私も遠慮しておきます」
二人は断ったが、俺が行くと二人は付いて来ざるを得ない。それなのに、食べれないとなると、申し訳なくなってしまう。
「いやでもさ」
「幽霊には味覚がない」
「あ…」
「それに、私が此処に居る理由は、様々な景色を見ることだ。死人のことは気にするな」
「まあ…それなら」
まだなんとなく気にかかるが、納得はした。じき慣れるだろう。
「霙の奢りなら」
と、俺の憂いそっちのけで雹はだらしなく椅子に座っている。姉妹でこうも差が出るものかと。
「やだよ、自分の分は自分で払って」
「陽葉の分は霙が出すんでしょ?一緒じゃん」
「あ、マカさんも誘います?」
ついに無視した。雹も気にはしていない様子。
「そうだな、一応誘ってみるか」
早速マカにメールを送ると、二分程で返信がきた。
「マカも行くって。細かい時間は?」
「無難に3時頃で」
時間も決まり、陽葉は嬉しそうに大きく伸びをした。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
時間通りにマカを迎えに行き、近くのケーキ屋へ向かう。場所は霙に任せてある。
「ね、ねぇ…そう君…」
「ん?どうした?」
マカは歩き始めてからずっと俺の腕にしがみつくように隠れている。非常に暑いが、マカの為なら仕方がない。時雨と紗奈が近くに居てくれているお陰でだいぶ緩和されているのが救い。
「あの人…誰…?」
「ああ…」
大体分かってはいたが、どうやらマカは陽葉に怯えているようだ。
陽葉は陽葉で、雹の後ろをこそこそついてきている。耳は帽子で隠し、尻尾はシャツの中に仕舞い、服は霙のものを借りている。
「雹の友人だってさ」
間違ってはいないし、これ以外にどうも説明出来ない。
「陽葉暑い、離れろ」
「だ、だって…」
雹はくっついてくる陽葉を剥がすのに必死になっている。
霙は先導する為に一番前を歩いているが、雹と陽葉を無視しているようにも見える。
住宅街を抜けて大通りへ出ると、一気に人が増える。マカは陽葉に怯えているので、あまり変わらない。
「ここです」
駅前にあるケーキ屋…読めない。
「なんて読むの」
雹が俺と同じ疑問を抱き、霙に問う。
「ウィット・ズ・ワルト、だって」
行ったことはないんだけどね、と付け加え、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
どこかで聞いたことのある声。むしろ最近は毎日聞いている声。
「ん?君たちは…」
ウェイトレス姿の風凪翠雨がそこにいた。白黒の制服で、メイド服のように見えるが下はズボンだ。
「お、翠雨じゃん。バイト?」
雹が陽葉を引き剥がして霙に押し付け、翠雨へ問う。
「ああ、随分と前からお世話になっている。何名様ですか?」
雹は軽く振り返り、時雨を見る。時雨はアイコンタクトで返した。
「五人」
「此方へどうぞ」
翠雨は席まで案内し、五人分の水を用意してくれる。
時雨と紗奈はいつの間にか姿を消していた。
白を基調とした内装に、黒い小物が散りばめられたお洒落な雰囲気の店。時間もあって、埋まってはいないものの客は多い。
「ケーキはあちらに置いていますので、実際に見てみたい場合にご利用ください」
そう言って翠雨は店の奥へと入っていった。
陽葉はさっきと打って変わってとてもウキウキしている。可愛らしい。
「決まった?」
雹はメニューを開かずにそう聞いた。
「決まってる訳ないだろ」
「遅いな」
雹は真っ直ぐ手を挙げ、翠雨を呼んだ。
「ショートケーキ。あるよね?」
「はい」
「みんな決まってないみたいだから、私だけ先に持ってきて」
「かしこまりました」
せっかちなやつめ…
「見に行ってみるか?」
俺はマカに聞く。ディスプレイされているものを見た方が決めやすいだろう。
マカを連れてガラスケースに納められたケーキを見に行く。
「私…これ」
マカはモンブランを指差した。
「じゃあ俺はこれで」
ガトーショコラを選び、翠雨を席に見付けたので席まで戻り、飲み物とともに注文する。霙と陽葉も注文を済ませたようだ。
「ああうん、うまいうまい」
雹は既に運ばれてきていた苺が乗ったスタンダードなショートケーキをぱくついていた。
「もうちょっと上品に食べろよな」
「疲れるからやだ」
そう言ったが、少し大人しくなったようにも見える。
と、次々とケーキが運ばれてきた。
「美味しい!」
陽葉がチョコレートケーキを一口食べ、賞賛する。
「そりゃよかったな」
雹は殆ど食べ終えたショートケーキの皿を、陽葉の方へ押した。
「何?くれるの?」
「その代わりそっちもちょうだい」
残霊師と式神というよりは、やはり友だちや姉妹という表現が合うような二人。霙と三人で並んでいると、ますますそう思えてくる。
「…美味いか?」
「うん。美味しいよ」
前に座る三人から視線をずらし、窓際に座る少女へ声を掛ける。マカもこちらを向いて、笑顔で答えてくれた。
雹とは対照的にマカはちょっとずつフォークで崩しながら食べている。
「これ本当に美味しいですね…翠雨さんが作ったんでしょうか?」
「いや、私ではない。マスターが作った」
いつの間にか翠雨が俺たちの座っている席に来ていた。
「だが、それを伝えればマスターも喜ぶだろう」
「伝えといて」
「ああ」
雹はそれだけ言うと、窓の外を見ながらオレンジジュースに刺さっているストローを咥えた。どこか物憂げなように見えたが、食べ終えて暇なだけなんだろうな。




