信頼、繋がる
あれから数日が経った。何回かマカの様子を見に行き、連絡も取ったが、特に変わったところは無かった。
「そんな心配しなくても大丈夫だってば」
ソファでだらだらしている雹が声を掛けてくれる。そうは言うが、もし何かあったらと思うと…
「うーん…そんなに心配なら式神でも飛ばそっか?」
「そうだな……え?」
聞き慣れない単語が耳に入ってきた。
「式神?」
「式神。今は持ってないな…霙、式神持ってる?」
「うん。ちょっとくしゃくしゃになっちゃってるけど」
時雨のプレイしているテレビゲームの画面を眺めていた霙が、ポケットから札を取り出す。
「札って…そんな適当に扱っていいのか?」
破れたりしていると使い物にならないんじゃないかと思う。
「こいつは別にいいんだよ。んじゃ早速。雛多ヶ宮雹の名において…」
目を瞑り、精神を集中させているのだろう。
「……………詠唱いらなかったっけ?」
「多分、いらないと思う」
「やっぱり?思い出そうとしても全然出てこなかったんだよねぇ」
精神集中なんぞしていなかった。
「えぇー……名前…名前…こいつ名前何だっけな………陽葉…苗字は…月影…いいから出てこい!」
システムは分からないが、粗いということはなんとなく分かる。雹は左手に乗せた札の上で、綺麗な指パッチンを奏でた。
すると、
「何で名前忘れてんの?」
黄色の半纏を着た、陽を綺麗に反射している、床にまで届きそうな白銀の長い髪。
不満を宿した金の眼を細め、腕組みをしている少女が、雹の前に立っていた。
背はかなり低い。霙よりも低いか?
そして何より目を引く、頭から生えている獣の耳。猫っぽいな。
また、幼女が増えるのか…こんなところをご近所さんに見られると、あらぬ噂が立ちそうで怖い。
「いやー、久しぶりだし。忘れてないよ?絶対記憶能力あるんだもん」
「久しぶりくらい閉じ込めて、もっと使ってよね」
よくない空気になりつつあるので、声を掛けてみる。
「あの…説明してほしいんだが」
「ん?あ、そだね。ほら、自己紹介」
「えー?何?」
何故か嫌そうに睨まれた。
「ひぇ…?…月影、陽葉…です…」
睨んだと思いきや、恥ずかしそうに俯いて名前を呟く。
「…陽葉、か。俺は玖乃川想儀。想儀でいい」
沈黙。
「……どうしたんだ?」
俺は銀髪獣耳から視線を外し、雹を見る。そういえば、雹も銀髪か。
「私と霙以外の人には丁寧に振る舞ってるから、今のやり取りを見られて恥ずかしかったってとこかな」
「最悪…死にたい…」
恥ずかしいどころか最大級に落ち込んでるぞ。
「あー…まあ俺は気にしてないし、別にいいんじゃないか?」
見ていたのは俺だけじゃないが。
「騒がしいのが増えただけじゃないか」
時雨は溜息を吐く。その言葉でますます陽葉は縮こまっていく。
「式神と言うのは初めて見ましたが…どのような力を持っているのでしょうか」
時雨、紗奈も一部始終を見ていた。
「はあぁぁ…清楚キャラがぁぁ…」
「清楚の意味調べてこい。いや、調べなくていい。命令を通達するから、その四つの耳でよーく聞け」
耳は頭の上の他に、顔の横にもついているらしい。
「座標は今送ったから。そこに行って、様子見てきて」
陽葉は命令と聞いて気を取り直した様子。
「分かった?」
「報酬は?」
「そんなもんある訳ないだろ…」
小声で言葉を吐き、雹は少しの間考える。
「逆に、何が欲しい?」
「ケーキ、とかかな」
「は?」
即答する雹
「は?じゃないでしょ」
「私の霊力食べて生きてんだから、相応には働けよな」
「使わなかったのはそっちじゃないのよ」
ああ、また…
俺はなんとかできますでしょうか、と霙に視線を送る。霙は頷いてくれた。
「ほら、ケーキなら一緒に食べに行けばいいでしょ。お姉ちゃんが行かなくても私が行ってあげるから」
霙は雹と陽葉の間に入り、仲裁する。よかった、霙もここにいてくれて。
「はぁ、分かったよ、褒美くらいやるよ。ほら、久しぶりだし、再確認しとこ」
雹は溜息を吐きながら、陽葉と自身の前髪を掻き分け、両者の額を合わせる。
「式神、月影陽葉、認識完了。視覚、聴覚、接続良好。精神思考電波、感度良好」
「主人、雛多ヶ宮雹、認識完了。これより再認証へ移る」
三十秒程、少女二人は額を合わせていた。
「同調率九十七%。いい?手に負えなさそうだったら直ぐに呼んでよ。お前、後方支援タイプなんだから」
なんだかんだ、心配してるんじゃないか。
「分かってるよ。行ってくる」
陽葉は大窓を開け、大きく息を吸う。
「久々の空気…風…んん…気持ちいい…」
窓の外の景色に伸びをした次の瞬間、陽葉の姿は小さな白猫へと変わっていた。
「にゃあ」
一声鳴くと、軽やかに外へ駆け出していった。
雹は暫く外の景色を見ていたが、飽きたように窓を閉め、あくびをしながら椅子に座った。
「ありがとな」
「私だってマカのことは心配だから」
当然だと言わんばかりの顔。それがありがたいって言っているんだけどな。




