言葉、伝えられる事
神社から足早に退散した俺たちは、神社から程近い公園で休むことにした。
「少し楽になったようだな」
翠雨が俺の背中に乗っているマカを見て、診断する。震えは止まり、どうやら寝ているようだ。
「よっ、と」
ベンチにマカを座らせ、俺が右隣に、雹が素早く左隣に座る。雹に手招きされて霙も雹の隣に座った。
幽霊組と翠雨は立ったまま。
「君はお祓いが出来ると聞いたのだが…」
翠雨はまだ半信半疑な様子で、雹へ話し掛ける。
「もう始めてるよ。お祓いなんてもんじゃないけど」
マカの髪を掻き分け、額に手を当てる。続いて喉、胸、両腕、腹、太もも、脛、靴を脱がして足の甲に触れていく。
「全くもって異常無し。何かが憑いてたって痕跡も無し、熱とかでも無いみたい」
「あの場所自体に何かがあって、マカちゃんはそれに過剰に反応してしまったんだと思います」
霊を寄せ付けてしまう体質だったっけか。
「あの場所の、何か、は私たちで調べとくよ」
「ああ、頼む」
話が一段落着いたところで、翠雨が居ないことに気付いた。
「帰ったのかな?」
「まだ帰っていない」
正面に立っている時雨が喋ったと思ったが、声は右から。
翠雨は、右手で二本の缶を持ち、左腕で五本の缶を抱えて運んできた。
「全員分あるから、私からのプレゼントだ。好きなのを取ってくれ」
俺はマカの為のオレンジジュースを取り、みんなに先に譲る。
「想儀、アイスココア取ってー」
「あっ、私もそれで」
「アイスコーヒーでいい」
「想儀様、選ばれないのですか?」
「先に選んでくれ。俺は残ったのでいい」
「有難う御座います。ではグレープジュースを頂きます」
「さて…どっちがいい?」
残ったのは、コーラと栄養ドリンク的ドリンク。
「コーラで」
「なんとなく分かっていたぞ。君はずっとコーラの缶を見ていたからな」
翠雨は不敵な笑みで最後に残った缶を取る。
なんか、嫌な予感がした。
「私が知りたいことは山程ある。説明してもらえるだろうか」
翠雨が真剣な顔になる。それに伴い雹や霙、時雨と紗奈の表情も難くなる。
「まずは、貴女だ。私の知っている限り、『現在生きている』人間に貴女のような人間は居ない。貴女は何者だ」
「君は鋭いな。そこまで分かっていても問うか?」
「確信は得たい」
「…私は幽霊だ」
「ふむ、そうか…詳しい経緯を聞いても?」
「構わない。ではまずは死の直前から…」
時雨が話し始める。俺は知っている話なので、マカでも眺めておくことにしよう。
何故死んだのか、それから俺に会ったこと、今に至るまでを紗奈の話も織り混ぜて話す。
「ふむ…中々面白い…話は少し逸れるが、貴女は兄弟姉妹は居たのか?貴女が子を産まない限り、居なければ風凪の血は途絶えるだろう」
「時雨でいい。お前から貴女と呼ばれるのはむず痒い。質問はイエス。兄が居た。私より先に産まれ、早くに死んだ私より先に死んだ大馬鹿者だが」
何があったんだ?
「一人の女性に惚れ、付き合い、子を授かり、首を掻き切り死んだ。理由は果てなく謎だ。ただ、その兄のお陰でお前はここに居るのだな」
「ああ、感謝、だな。次は…雹、だったかな。君にも質問しよう」
「何で私はいきなり呼び捨てなんだよ。何で、君、なんだよ。年下だろ?」
「む?」
「年下って…分かるのか?」
「学校で見たのを思い出したんだ。一年二組だね。えらく時雨に似たやつ居んな、と思ったんだけど。私みたいな事情でもなければまともな年齢でしょ?」
ということは。
「同い年…?」
「ということになるな。同じ学校だとは。これからは人混みの中、君たちに気付いてしまうのだな。そんなことより。雹、君は、いや、貴女は年上なのか」
「十九」
不満ですよオーラが全身から漏れ出てるぞ。いや、見せているのか。
「それは失礼した。雹さん」
「あ、それはそれで違和感。時雨に言われてるみたいで気持ち悪い」
「どうすればいいのだ」
「雹で。ごちゃごちゃ言っちゃったけど」
「改めて質問しよう。いや、質問というよりは…君のことも教えてくれるか?」
「いーよ」
またまた暇なのでマカの顔でも見詰める。
「って感じで毎日毎日霙がうるさくて」
「お姉ちゃんが悪いんでしょ!」
「姉としてはもう少し柔らかくなってほしいと願わんばかり…」
「って言うか、話逸れ過ぎ」
「ああ、戻そう。霙、君は今聞いた通りだな」
「少し改変されていましたが、大体今の感じです」
「よし、事情は把握した」
ただ腕組みをしているだけ格好が、似合い過ぎている。
「……把握したから何なんだ、と聞かれると、別に何もないのだが。さて、私は帰ろうかな。すまないな、付き合ってもらって」
「助けてもらった礼…ってのは偉そうか。マカを休ませるついでだし」
「話も分かりそうだったしね」
「ふむ。私はただ手を差し伸べただけのつもりだったが。まあいい。また会おう」
背を向け、歩き出す。
「待て、家まで送るよ」
「何故だ?」
「暗いし」
「私は見た目は御覧の通りか弱く華奢だが、君にも負ける気はしない」
「それでも…」
「君は優しすぎる。君が惚れられる一因だな」
「私たちが着いてくよ。神社見に行くし。今日は帰んないから」
「皆さんおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「構わないのだが」
「いーからいーから」
雹は翠雨の背中を押し、その後ろを霙が追う。
「私たちも帰ろう」
「そうだな」
再びマカを背負い、帰路に着く。
結局翠雨は缶を開けずにベンチに置いていったので、そのままポケットに入れて持って帰った。




