一致、今に至る
綿あめを買い、更に歩き神社の奥の方へ行く。奥に行くにつれ、人が多くなる。
そこでマカの様子がおかしいことに気付いた。
「マカ?大丈夫か?」
「そう…ぎ…」
「どうした?」
「ああぁ…あぁ…うぁ…」
声にならない呻きを発する。
「怖い…怖いよ…そうぎ…怖いよ……」
カチカチと歯を鳴らし始めた。これはヤバいんじゃないか?というか何か俺の方が怖くなってきた。
「おい、マカ!」
「ああああああぁぁっっ!」
いきなり叫び出し、手を振りほどいて走り出す。マカは人混みを躱し、綺麗に走っていく。
「マカ!?」
「想儀どしたの?」
「雹、みんなのこと頼んだ!」
「へ?何々?何なの?あっ、ちょっと!」
後ろで雹が喋っていたが、俺はそれどころじゃない。
マカは足が速い。中学の時なんかは、殆どの男子よりも速かった。それでも俺の方が速いが、この人混みの中で闇雲に走るマカと、マカを追う俺、どちらが速いかなんて…完全に見失う前に追い付かないと…
人混みを掻き、走る。
人が段々少なくなっていく。拝殿の方は露店は置いておらず、人影は見当たらない。
「はぁ…はぁ…離さないっつっといて…見失う訳には…」
静まり返る境内。会場からあまり離れていないが、此処は何故か凄く静かだった。
「……マカ」
拝殿、賽銭箱の前の階段に座り込むマカ。
「やっぱ怖かったか?ごめんな、早く気付いてやれなくて」
「そうぎ…怖い…此処…嫌…」
両肩を抱き、震えている。俯いているので表情は見えないが、きっと怯えきっている。
「ああ、帰ろう。立てるか?」
マカは首を横に振る。
「暫く休むか」
あいつらのことは雹に任せたし、不安になるような人はいない。大丈夫だろう。
マカの横に座り、寄り掛からせる。
小刻みに震えるマカは、何を感じたのだろうか…情けないことに俺には分からない。寄り添うことしか出来ない。
「ん…?」
ふと、走ってきた道へ目をやる。誰かが歩いてきている。
「誰だ…?」
まあ拝殿な訳だし誰がお参りしてもいいんだろうが、俺は警戒心を前面に押し出す。
「ああ…まあそう拒んでくれるな。悪い者じゃないよ、決して」
声質からして、若い女性だろうか。どこで聞いたことがあるような声だ。
そう言われたものの、俺はその人物を睨み続ける。
「どうすればいいかな。何をすればその警戒を解いてくれる?」
ゆっくりと、しかし確実に歩み寄ってくる。
「誰だ!」
「うん?名前を聞くか?仕方ない、答えてやろう」
月明かりが女性の顔を照らす。
「風凪 翠雨」
「は?」
名前、容姿、声色。どれを取っても時雨にそっくりだった。
声はこちらの方がやや高い気がするが、見た目に関しては、寧ろ時雨本人じゃないのかと思わざるを得ない程似ている。
眼鏡を掛けているのが大きな違いか。
「みどりのあめと書いて、すいう、だ。気軽に翠雨と呼んでくれればいい…どうした?口が開いているぞ。口の中を見せる趣味でもあるのか?」
「ある訳ないだろ」
「ならばどうして」
「いや、知り合いにそっくりな人が居て…瓜二つって言うの?苗字も同じなんだけど…声とかも」
「ふむ?私の知っている風凪姓に私と瓜二つな人物は居ない筈だが、稀有なこともあったものだな」
翠雨は白衣のポケットに手を突っ込み、財布を取り出す。
「君も入れるか?」
十円を差し出してくる。
「入れるなら自分の金を使うよ」
「そうか。遠慮しなくてもいいのだが。失礼」
賽銭箱の前に座っていた俺たちは少し横にずれる。マカは相変わらず震えっぱなしだった。
翠雨は金を入れ、手を叩き、拝む。終わって振り返り、俺へ問い掛ける。
「君の名も教えてもらってもいいかな?」
「玖乃川想儀」
「想儀、が名前だな。そちらの子は?調子悪いのか」
「ああ、少しな」
「ふむ…」
翠雨はマカの正面にしゃがみ、下から顔を覗き込む。
「酷く怯えている。すぐに此処から出て、これからはあまりこの場所に近付けない方がいい。鳥居から先へ行かせるな」
「歩けないって言うから、暫く休んでから行こうと思ってたんだけど」
「此処に居る以上悪化する一方だぞ。手を貸そう」
マカの左腕を持つ。マカは力が抜けたようにされるがまま。
「何が起こったのか、分かるのか?」
「さあ?ただこの場所は…あまり雰囲気がよくないだろう?」
重く、湿った空気。
「確かに…」
「確信がある訳じゃない。が、此処に居るより安心出来る場所はあるだろう。歩けるか?」
「う…あ……」
「重症だな。専門家でもいればいいのだが」
「専門家?」
「お祓いが出来るとかそういう輩だ」
「二人程知り合いが居る」
「本当か。何処に居る?」
「一緒に祭りに来たんだけど…」
「想儀!」
とか言ってたら正面から専門家が走ってきた。後ろから時雨たちも着いてきている。
「あいつ」
「ふむ。本当か?冗談を言っている場合ではないぞ」
「本当だって。見掛けはあれだが」
成りの小さな浴衣姿。まあ、初見であれがお祓い出来るとは思えんわな。
「何でこんなとこに…ってマカ大丈夫?というかこいつ誰?」
騒がしいやつだな。
「ん?時雨?でも眼鏡掛けてるし…」
「よく名前を聞かれる日だな。風凪翠雨だ」
「奇遇だな。私の苗字も風凪だ」
でかい熊のぬいぐるみの頭を抱え、口の中にベビーカステラを詰め込んだ時雨が器用に喋る。
ベビーカステラ見えちゃってるから。
「風凪、か。君の言う私に瓜二つだと言う人物は彼女か」
「ああ」
「確かに、鏡を見ているようだな」
「時雨様と瓜二つ…子孫でしょうか?」
「恐らくな。しかしここまで似るものか。気味が悪いと言うかなんと言うか」
「兎に角、この子を神社の外へ連れ出さねばならん。話はそれからだ。想儀君、君が背負えばいいではないか」
「あ、ああそうだな」
翠雨に手伝ってもらい、マカを背に乗せる。マカの震える躰は軽く、今にも消えてしまいそうで…
「急ごう」
極力揺らさないように、それでも早足で鳥居を、神社の外を目指す。




