昔話、始まり
「私たちが生きていたのはおよそ七百年程前のことです」
小難しい話だったので、以下要約。
七百年前、というと鎌倉時代辺り。そしてその頃に「鎌倉大地震」が起きた。多数の死者が出た地震だそうだ。
人々は正体不明の力に怯え、そしてその恐怖の捌け口として、特別な力を持った人間を殺そうとした。そうすれば今後こんなことが起こらないだろう、と考えて。
特別な力とは、霊や妖怪を退治する、霊や神と話が出来る、など「生物」では無い者と関わることの出来る者たちのことだそうだ。
各地の特別な力を持った人間が集められ、処刑される。風凪時雨はそれが当然の如く許せなかった。
しかし、人間はそうでもしないと気がすまない状態にまでなっていた。狂気に溢れた人間たちの前で風凪時雨は言い放った。
「今回の地震は私が起こしたものだ」
と。
真偽は問われることなく、風凪時雨は処刑されることとなった。
丁寧過ぎる口調で多少眠くなってしまったが、要点は聞き取れた筈だ。
そこで、疑問が浮かび上がった。
「あれ?霧咲はどこで出てくるんだ?」
「私は小さいときに両親を亡くしました。紆余曲折を経て時雨様に面倒を見てもらうようになったのです」
自分にとって親、尊敬する人物。そんな人が身勝手な理由で殺されるのが許せなかったが(考えが同じなのは実質親子だからだろうか、まあ親が死ぬのが許せる訳もないが)、人々は止められない。時雨も、自分が犠牲になる、と言って聞かない。
時雨がいない世界では色々な意味で生きていけない、と考えた霧咲は、処刑当日、時雨と共に死ぬことを選んだ。
二人の亡骸はこの地に埋められた。そこに、特別な力を持った人間が、
「自分たちの代わりに犠牲になってしまった二人の為に」
と、埋められた場所の上に小さな社を建てた。様々な祈りと力と感謝を込めて。
そして、気付けば地縛霊のようになっていたらしい。
「別にそんなものになる気はなかったが、あいつらが訳の分からんことをするものだから……」
つまり様々な力が混ざりあい、魂がこの社に縫い付けられた、という訳だそうだ。
どういう訳だかイマイチ分からないが、本人たちもイマイチ分かっていなさそうなので、そういうことかと無理矢理納得しておいた。
恐怖が狂気を呼び、悲しい事件を起こす。今でもどこかで起こっていることなのだろうか。
”本当に誰かが死ぬしかなかったのか?”
俺は思わずそう呟いていた。
「さあ。他に方法もあったかも知れんな。でもあの時は仕方なかった、としか言い様がない。人間も躍起になっていたし。正体不明のモノには怯えるしかないだろう。ならば私一人が死んで事が収まるなら、と。結果、もう一人死なせてしまったがな」
時雨は目を細め、申し訳なさそうに霧咲を見た。
「今こうして御一緒出来ているのですから。人間でいるときよりも遥かに長い時間を過ごせて、私は幸せです」
その言葉に軽く微笑む時雨。霧咲は少し楽観的なのかも知れない。
霧咲は思い出したように再び話し始めた。
「二百年程経ってから気付いたのですが、私はどうやらこの社ではなく、時雨様の魂を寄り代にしているようなのです」
時雨は社に憑いているが、霧咲は時雨に憑いているってことか。いやいや。
「なんでだ?」
「私が時雨様を想いに想った結果だと思うのですが……」
霧咲は恥ずかしそうにそう言った。その表情とセリフはこちらまで恥ずかしなってくる。
再び疑問。
「服はどうしてるんだ?七百年も前なんて、そんな服ないだろ」
「時代に置いていかれないようにするためだ。寧ろ、この時代に昔の服を着ているほうが不思議だと思うが」
そういうことを聞いてるんじゃないんだけどなぁ……
「ここに来る人や、私が見た人が着ていた服をコピーして、この服を作り上げたのです」
「気付いたら、出来るようになっていた。大昔のことだ」
そんな不思議なこと……魔法の域じゃないのか、それ。
「他に質問が無ければ、私たちが今に至るまでの経緯はこれくらいでしょうか」
質問は追々することにしよう。これからが本題のようだ。




