決意、護るべき人
赤を基調とした、花の模様が可愛らしい浴衣を着た雹は、姿見の前で不満そうな顔で立っている。立ち方がだらしない。
「似合わないってのに…動きにくいってのに…」
「大丈夫だよお姉ちゃん!」
「私の精神は大丈夫じゃないよ」
そんなにダメージ受けてるのか。
「霙はいいよ、似合ってるもん」
霙は朱色に花火の模様が描かれた浴衣。
「私が似合ってたらお姉ちゃんだって」
「双子じゃないんだからさぁ…」
「可愛いと思うけどなぁ」
なんとなく、本当にそう思って、呟く。
「な…」
「あ、いや…」
「想儀さんもこう言ってるよ」
「可愛い訳ないじゃん!」
顔を真っ赤にして反論してくる。髪以外の全身が赤い。
「脱ぐ!」
「今日一日だけだから!お願い!」
「なんでそんなに着せたいのかも分からんが」
「可愛いからです」
なんつー理由だ。意外なところで押しの強い霙は、ややシスコンの気がある。
「女であり妹である私から見ても可愛いと思うんだから、絶対可愛いよ。モテるよ」
「別にモテなくてもいいよ…」
雹は反論する力も尽きたのか、項垂れてソファに座る。
「顔はいいんだからもっと自信を持てばいいと思うのだがな。性格は壊滅だが」
「お前程じゃない」
「見る目が無いとはこのことだな」
「お前程じゃない。お前ら程浴衣が似合ってれば嫌でもないんだよ」
幽霊というのも忘れそうなくらい人間らしい幽霊を見る。
時雨の浴衣は、水色メインに蝶が舞っている。
紗奈は時雨の浴衣と同じような模様で、紺色。
「浴衣って感じの浴衣だな。色々組み合わせたんじゃないのか」
「ホントに種類が無かったのよ」
「ネットで調べりゃよかったのに」
「ネット…ああ、その手がありましたね」
「私はこれで満足しているがな」
じゃあいいんだけど。
「はぁ…今日だけだよ?」
「ふふっ、去年もそう言ってくれたね」
「そうだっけ?そういやそうかもね」
奥義による絶対記憶能力。忘れることが出来ない筈だ。
「一つ思うことがあるんだけど」
「何?」
「いや…着るの早くないかなって」
まだ昼食も食べていない。
「脱いでまた着るの面倒なんだけど」
「このままでいいよ、お姉ちゃん」
「邪魔なんだって」
袖をぷらぷらさせる。
「十九歳なら我慢してみせろ」
「我慢出来ないとは一言も言ってないんですけど?」
「ではこれより浴衣についての文句や愚痴は禁止だ」
「余裕だ!」
いつも通り、かな?
「そろそろ飯にするか」
浴衣っ娘たちは一斉に返事をした。
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「準備出来たか?」
準備っと言っても財布を持つくらいか。手間取るようなところに行く訳でもない。
「下駄て」
「靴じゃおかしいでしょ」
「そうだけど」
雹と霙は霙が浴衣と共に持ってきた下駄を履く。時雨たちも足元に下駄を作り出す。
「んじゃ、行くぞ」
祭りの会場である神社までの通り道にある、マカの家に寄る。
「お待たせ」
黄緑に向日葵が描かれた浴衣を着たマカが、玄関から出てきた。
「一年ぶりに見たな」
「一年前にも着たもの…」
「似合ってるよ」
「ん…ありがとう」
恥ずかしそうに俯くマカ。
「ほら、早く行くよ」
あれだけ浴衣を嫌がっていた雹は、軽快な動きでマカの手を取り引っ張ってグイグイと歩き出した。
「こら、転けるからゆっくり歩け」
俺は追いかけて、怯えているマカの手を握る。
「怖いか?」
勿論、転けることへの不安ではない。
「う、うん…まだ少し…」
人混み、祭りに対しての恐怖。去年はなんとか行くことは出来たが、十分程で帰ることになった。
「今年は最後まで楽しめるといいが…」
「ごめんね…そう君…」
「謝ることなんかじゃない。俺はマカの力になりたいんだ」
出会ってから俺は、マカの支えになりたいと思って生きてきた。
「この手が離れることがあっても、俺が離れることはない。だから安心しろ」
「うん…ありがとう」
手を握りしめると、強く握り返してくる。
「今年はみんなもいる。一人になんかならないさ」
少し震えが治まってきたかな?
「折角の…お祭りだもんね…楽しまなくちゃね…」
強張る顔に笑みを浮かべる。
「無理はするなよ。疲れたらすぐに言ってくれ」
「うん」
何があっても、求められるならば、離すものか。




