予定、一致は当然のように
俺は恐らく、夢の中に居る。
いつだったか、前にも見たことのある空間。前もだったかは忘れたが、今居る空間は、鮮やかな色で塗られていた。
いや、塗られていると言うよりは、貼り付けてあると言うか。
ビビッドに傷が入り、割れ、剥がれる。音も無く崩れていく色。目の前には形そのままにモノクロムが広がっている。
少し白が強めに見える。そんなことを考えるくらいには余裕があり、この世界に慣れてきているようだ。
「また会えたわね」
向こうから人が歩いてくる。
向こうから?何処から?此処は?
頭の中が、いや、この世界は頭の中に広がる世界か、掻き回されていく。疑問符と好奇心で手を伸ばす。手は虚空へ伸ばされ何かを掴む。
視界に色が響く。
「あ、えっと、おはようございます」
「うん?おはよう」
何故枕元に霙が座っているのか。何故高々と挙げられた俺の手は、霙の手に掴まれているのか。
「急に手を挙げられたので、つい…何か苦しそうでしたが、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫だ」
あれは夢なんだろう。気にすることもないし、心配させる訳にもいかない。
「…………」
「どうかされましたか?」
どうかされてるから顔を凝視しているんだ。
「いや、なんで霙がここにいるのかな、って」
霙は恥ずかしそうに俺の手を離す。それがきっかけということではないが、俺は上半身を起こす。すると、霙の横に紙袋が置かれているのが見えた。
「それは?」
「そう、これが本題です」
霙が紙袋から取り出したのは、数匹の猫や犬。まあそんなものを紙袋にほいほい入れる訳にもいかないだろうし。
「可愛いな」
小さなぬいぐるみだった。
「可愛いですか?よかったです」
「えっと、これを…どうして?」
「昨日家から持ってきたんです。」
出掛けたのはこの為か。
「なんで?」
「私やお姉ちゃんを置いていただいているので…子どもっぽいかなーと思ったんですが、私に出来る精一杯をやってみました」
ああ…可愛いな。素直に嬉しい。というか嬉しくない訳がない。
霙は子どもっぽいと言ったが、確か中学生だった筈だ。これくらい子どもらしい方がいい。
「ありがとう。大切にするよ」
「喜んでもらえて嬉しいです」
笑顔で応える霙。
「あの、これありがとな」
改めて礼を言っておく。
「いえ、そんな、大層なことじゃないので…あの、これからもよろしくお願いします!」
紙袋を掴んで、霙は部屋を出ていった。顔を赤らめていたので、恥ずかしかったのだろう。可愛い。
「むにゃ…」
霙が座っていた後ろのベッドに、雹が寝ていた。全く気が付かなかった。
「なんか…もうちょっとちゃんと出来ねぇかな…」
暑いのは分かるが、クーラー点けてんだし腹くらいしまえよ。風邪ひくぞ。
「………」
ほんと、霙と同じような童顔なのに、こっちは何故か大人びて見える。起きている時の騒がしさが嘘のような寝顔。
「雹らしさ、か」
服を整えて布団を掛けてやる。
「早めに起きろよ」
「うむゅ…」
少しだけ口元が微笑んだ気がした。
霙から貰った猫や犬のぬいぐるみたちを机の上に並べ、少し眺めてから部屋を出る。
「遅かったな、朝食は用意してあるぞ」
「ん、サンキュー」
テーブルについて早速食べ始める。今日はパンを始めとした洋食か。
「想儀、暇だ」
ソファに座っていた時雨が声だけを俺に向けてきた。
「んなこと言われても。ゲームはしないのか?」
「外に出たいのだ」
そういや元々は、色んな景色を観るのが目的だったっけか。
「なんかあったかな…」
「今日はお祭りがあるそうですよ」
紗奈が一枚の紙を差し出す。
「丁度いい。行こう」
時雨もこっちへきて、その紙を見る。
「ああ、いいよ。霙も行くか?」
「はい、ご一緒させていただきます」
「あいつは?」
「聞かなくても分かる」
「じゃあ、彼女は?」
時雨がニヤニヤしながら、紙から視線をずらして俺を見る。
「メールしとくよ」
携帯のタッチパネルを操作し、誘いのメールを送る。
「お、返信早いな。行くそうだ」
何度かやり取りし、集合時間も決める。
「浴衣取ってきます」
霙は実家へ浴衣を取りに行った。
「私たちも着替えるか」
「しかし、浴衣の記憶は少ないですよ」
「あるものを組み合わせて、オリジナルを作り上げればいい」
時雨たちは手品のように服を組み替えていく。
暫くして階段を降りてくる音が聞こえてきた。
「嫌な未来が見えた」
「ん?どうした」
雹が重い足取りで部屋に入ってくる。
「たまに未来が見える力が夢で無意識に発動することがあってね。ついさっき見えたんだけど…何その格好」
幽霊たちを見て、訳が分からんといった表情で佇む。
「浴衣?」
「今日祭りがあるんだが、雹も行くよな?」
「勿論行くけど…これか…」
「どうしたんだ?」
「霙が居ない…戻ってきた…手に持っているのは…はぁ…」
雹は目を閉じ、ぶつぶつ言い始めた。
「何してるの?」
「未来を見てる。自分からは滅多に見ないんだけどね」
憂鬱そうな顔の雹。
「祭りは好きなんだけどさ、浴衣が嫌いなんだよ」
「なんで」
「着脱が非常に面倒。邪魔。動きにくい」
「似合うと思うが」
「他人にどう思われるとかじゃない。自分にとって負しかないのに、着る意味が分かんない」
「着なきゃいいじゃん」
「そうもいかないんだよ…」
リビングのドアが開き、霙が帰ってきた。
「ただいまです。あ、お姉ちゃん起きたんだ。浴衣持ってきたよ」
「じゃあな、我が妹」
「逃がさないから!」
「逃げる!」
「よっ」
逃げようとした雹を、時雨が抱え上げる。
「似合うんだから、勿体ない」
「毎年言ってるけど、似合うとかどうでもいいの!降ろせ!」
「面白そうだからな。着てもらう」
時雨は雹に対して面白さしか求めていない。
「想儀様は着ないのですか?」
「持ってないし、別に俺の浴衣なんて見たくないだろ?」
「いえ、そんなこと無いですよ。私は見たいです。しかし持っていないならば仕方ないですね」
「持ってても着ないが」
着脱が面倒だし、邪魔だし、動きにくいしな。




