許容、他が為だけではなく
更衣室の前のベンチに座って待っていると、三人が揃って出てきた。
「帰るか」
楽しい思い出を心と記憶に残し、帰路につく。
「疲れてたんだな、みんな」
電車に乗り、四人掛けの席に隣同士になって座る。
マカは俺の隣で、雹と霙は俺と時雨たちの隣の席で仲良く寄り添いながら眠っていた。
「あれだけはしゃいでいたのだ、仕方ないだろう。それより、想儀は大丈夫か?」
「ああ…多分問題無い。この疲れも、遊びすぎたからだと思うよ」
だといいのだが。あの…幽霊だろう、触れられた時の恐怖や絶望感に繋がるような感情は、今は無い。
「ならいい。想儀が居なくなってしまっては、私たちも消滅してしまう。いや、私たちが消えるだけならいいが、想儀が想儀でなくなってしまうのは、此処にいる皆が望まないだろう。これからは、もっと気をつける」
時雨と、紗奈も申し訳なさ気に俯く。
「そう思ってくれるのは嬉しいけど、折角の楽しい時間の後なんだ。笑って帰ろうぜ」
「そう…だな」
二人とも笑ってくれた。素直でいいやつらだ。少なくとも、この二人は俺よりも強い。俺が笑えているうちは、笑顔を見せてくれるだろう。
その後は幽霊たちと談笑を続けた。途中で眠たくなったが、なんか話の中心みたいになっていたので、意地で起きといてやった。
眠い。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
駅前の、評判の良いソフトクリーム屋で紗奈はバニラソフトを注文した。
「ここ、一回食べてみたかったの…ありがと、そう君」
まだ疲れている表情だったマカも、ソフトクリームを食べているうちに元気になったらしく、美味しいと呟きながらソフトクリームを完食した。
駅からの帰り道でコンビニに寄り、俺はコーラを、霙はシュークリームを選び、雹とマカにお金を出してもらった。
「あーあ、私もシュークリーム食べたいなぁ」
帰り道で早速シュークリームを食べながら歩く霙を、羨ましそうに見詰める雹。
「買えばよかったじゃない」
「人の金でシュークリームが食べたい」
「お姉ちゃんの誕生日に買ってあげるから」
「来年じゃんかー」
駄々をこねる雹を窘める霙。それを見ながら微笑むマカ。
「マカ、楽しかったか?」
「うん、凄く」
「良かった。みんなと一緒に居ても、そんな笑顔が出来るなら安心だ」
マカは驚いたように目を開き、また微笑み直した。
「でも…そう君が居なくなったら」
「それ以上は言わなくていい」
分かっている。自意識過剰かも知れない。でも、マカが俺に依存してしまっているのは分かる。小さい頃からずっと。
「そう君は優しいね」
ダメなことじゃない。けど、マカが言うように、俺が居なくなったら…
「マカにそう言ってもらえると嬉しいよ」
今は、そんなことは考えないようにしよう。俺は、マカの手を取った。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「じゃあ、今度遊びに行く日程が決まったら、また連絡するよ」
マカを家まで送り、互いに向き合う。
「うん、分かった。あの…ありがとね」
「礼を言われるようなことはしてないよ」
「分かってるのにそういうこと言う…」
マカは少し頬を膨らませ、笑顔に戻って、「また、ね」と言って家へと入っていった。
自宅の前まで戻ると、霙が雹を背負って待っていた。雹は再び眠りについている。
「代わろうか?」
霙に提案してみたが、「軽いので」と断られた。確かに雹は軽いが。
「飯まで寝かしといてやるか」
「うみゅ…」
幸せそうに眠る少女を起こす訳にもいかない。
「ソファに寝かしといてくれ」
「分かりました」
デタラメに眠いが、飯は作らなければ…
「紗奈、手伝ってくれるか?」
「はい、任せてください」
「助かる」
霙も手伝うと言い出したが、眠そうにしていたので寝るように言っておいた。
ソファの端に座った霙は、背が低いので頭の先程しか見えないが直ぐに寝たようだった。
「想儀様、首が揺れていますが、大丈夫ですか?」
「が、頑張る…」
「想儀様、目が開いていません、それサラダ油じゃないです、ただの水です」
「ん…」
このままじゃ危ないと言われ、紗奈と、少し不安だが時雨に食事の用意を任せ、少し寝ることにした。
助かった…




