熱意、打ち合う果てに
飲み物を買って、休憩しつつ次に何をするかを話し合う。時間があるといっても少しなので、簡単に出来るものがいい。
「さて、意見をどうぞ」
「水上スキー!」
「色々足りねぇよ」
「スイカ割りはどうですか?」
「それも色々足りん」
「用意が悪いぞ」
「そう思うなら来る前に言ってくれ。水上スキーについては無理だ」
「次の機会には、用意を怠らないようにしなければいけませんね」
「…ビーチバレー…とか…どう…かな……?」
マカが提案する。どんどん声小さくなるが、マカが自分から意見を提案するのは珍しい。
「一応ボールあるし、ちょうどいいかもな。反対意見はあるか」
ネットなどは借りることができる。みんなの顔を見回してみる。全員が首を横に振る。
「よし、じゃあ決定」
「でも、やるとこあんの?」
浜辺は人で埋まっていて、とてもじゃないけどバレーなんぞ出来るスペースは無い。
「大丈夫。いい場所がある」
ある程度の広さもあり、人もあまり居ないうってつけの場所。
「もしかしたら先客が居るかも知れんが、そういう場所は何ヵ所かあるから、多分大丈夫」
俺と時雨と紗奈で、ネットとポールを借りに行く。
「こっちだ」
俺が案内する筈なのに、雹は霙を引っ張って、俺の前を歩いている。雹に子どもと言うのは禁忌だが、こういう言動はどう見ても子どもだ。
「わー、広い!」
雹がはしゃぐ。別に広い訳じゃないが、さっきまで人まみれだったので、広く感じる。
セッティングをして、チーム分けをする。
「身長的に、俺と時雨は分かれたほうがいいか」
俺は175cm程。時雨は俺より低いが170cm前後はありそうだ。
「雛多ヶ宮姉妹は分かれて」
どちらも百五十センチあるかないか程。紗奈とマカは、マカの方が164cm(自己申告)で若干高いがそう変わらない。
「じゃあ、俺と時雨、雛多ヶ宮姉妹、紗奈とマカでジャンケンして、その勝敗で決めよう」
結果、俺チームは紗奈と霙。時雨チームはマカと雹。
「これも勝者特典を用意するか?」
「そうだな、そっちの方がやる気が出るだろうから」
しかし、遠泳の時と同じであまり大きくなってはいけない。ということで、勝利チームは帰りにコンビニで一品ずつ好きなものを買ってもらう、ということになった。
「では、始めよう」
「ああ、負けないぜ」
「此方の台詞だ」
コートの線引きも済み、それぞれが位置に着く。
ルールはみんな詳しく知らないので、最高でも三回目で敵陣にボールを打ち込まなければならない、サーブの打ち直しは何度でもあり、くらいを決め、開始。
「紗奈、思いっきり打て!」
「はいっ!」
パァン!と綺麗に掌に弾かれたボールが敵陣の砂を狙う。
「真夏!」
「んっ」
「任せろ!」
時雨、マカが打ち上げたボールを、物凄い脚力で砂を蹴って跳躍した雹が打つ。身長差を埋める程の跳躍力、舐めてかかるとマズいな。
雹の一撃を俺がブロックし、霙が打ち上げ、紗奈が打つ。
何回かラリーが続き、
「よっ」
「あっ!」
なんか手首より下で打った気がするが、そんな俺のスパイクが決まる。
「まずは1ポイントだな」
「何点取ればいいの、これ」
「あー、それ一番重要だな」
「10でどうでしょう」
「じゃあ10で」
再開。
「はぁ、はぁっ、9ポイント、マッチポイントか?」
「む、越されたか…」
現在、9対8で我がチームが何とか逆転したところ。
「賞品関係無く、負ける訳にはいかん戦いだ。気を引き締めていくぞ」
「分かってる」
「う、うん」
時雨がリーダーとなり、雹とマカを引っ張っている。その気迫は学校の体育では感じないようなものだった。
マカの運動神経はかなりいい。足も速いし色んな球技にも対応出来る。病弱でも体力はある方だが、遠泳もあって流石に疲れてきているようだった。
ちなみにウチのチームは霙がやや疲れ気味。俺も久しぶりの激しい運動なので、肩で息をし始めている。おあいこといったところか。
マカが、疲れてはいるようだがキレのあるサーブを打つ。
「あっ、すみません!」
「紗奈っ」
「任せて下さい!」
手汗で滑ったのか霙が上手く打ち上げられなかったボールを紗奈がフォローする。そのボールを俺が目一杯叩く。
「ここまで熱くなるとはな…」
時雨が指先で渾身のボールを掬う。
「はっ」
「死ねえぇぇぇ!!」
マカが上げたボールを、雹が全身全霊で叩く。真っ直ぐに。
「あ」
雹以外全員の「あ」。雹は着地し、やりきった顔で佇んでいる。
ボールは真っ直ぐに飛んでいき、茂みに呑み込まれた。俺たちの勝利だが、そんなことは後でいい。
「取ってきますね」
「いいよ、俺が取ってくる」
踵を返した紗奈を止める。百メートルも無いので時雨や紗奈が引っ張られることもないだろう。
「この辺か?」
思ったよりも見付けにくい。おまけに水着なので肌に草が刺さる。
「やっぱ紗奈に頼んどけばよかったかな…」
行くと言った手前退けない訳だが。
「あまり待たせられないぞ」
自分に言い聞かせる。その時だった。
「止まって」
「え?」
後ろから声が聞こえた。聞いたことのある、というか雹の声だ。
「どうした?心配してきてくれたのか?」
冗談めかして言ってみるが、雹は子どもらしさの消えた真剣な表情に、思わず唾を飲む。
「まあ、そうだね。心配で来たよ。マカの方は霙と紗奈を置いてきたから大丈夫だと思う」
時雨はどこへ行った、と言おうとした瞬間、俺が来た道とは少しずれた茂みから時雨が姿を現した。
「確かに何か居るな。捜しに行くか?」
「私が行く。二人はボール見付けて戻ってて。というか、こんなに奥には飛んでないと思うんだけど」
「お前は見ていなかっただろうがな」
時雨がぐちぐち言い出したので、ひとまず了承して時雨とともに引き返す。
「何か居るって、幽霊か?」
雹があそこまで真剣になるのは、霊が絡んでいる時くらいだ。
「ああ。そこら辺にいたような無害な霊ではない。雹が言うには、悪霊だ」
悪霊…
「この近くは危険だろう。特に真夏を近寄らせるのは危うい」
「そうだな」
それにしても、ボールが見付からない。
「二手に分かれよう。時雨は向こうを頼む」
「分かった。何かあれば直ぐに呼んでくれ」
時雨は浜辺に近い方の茂みへ消えていった。
「さて…」
木が生い茂る、林とでも言うべきか。木陰になっておりかなり涼しい。時雨が傍を離れた今も、変わらない涼しさで――
「あの、此れをお探し?」
「へ?」
急に現れた声に、素っ頓狂な声を発してしまう。今度は、聞いたとこのない声だった。振り向くと、いつの間にか一人の女性が立っていた。
気配を全く感じなかった。
「どうされました?」
女性はにこりと微笑む。真っ白のワンピースを着て長い黒髪を靡かせている。清楚な大人と言うのがぴったりなのだろうか。男性的にイケメンな時雨とは別方向だが、この人もかなり美人だ。
「いえ、何も…あ、ボール、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして。それより貴方」
女性がゆっくりと近付いてくる。風が頬を撫でた。




