変わらない日常、繋ぐ
ざっぱーん、と予想通りの音を立てて、俺と俺に抱えられた雹は水面を叩いた。監視員に見られていたら怒られるかも知れない。
「ふーぅ」
「び、びっくりした…」
マカ以外は俺が走ってくるのを見ていたが、マカだけは浜辺に背を向けていたので、今の出来事に驚いているようだった。
「あれ?」
「どうした?」
「雹は?」
「雹ちゃん?」
マカは不思議そうに周りを見渡す。
「此処に居ます」
「そうぎ…」
「こわっ」
雹が紗奈の隣で浮き輪にしがみついていた。前髪が顔に張り付いていて、なんか怖い。
「こわっ、じゃないよ…」
「すまんすまん。でも楽しかったろ?」
「まあ少しはね…でもそういう問題じゃ…あ」
「楽しかったんなら甲斐ありってもんだ」
誤魔化すように頭を撫でる。が、さっきを思い出して素早く手を引っ込めた。
「むー…」
「さ、昼飯までに泳げるようになってくれよ」
「無理でしょ」
「そうじゃないと俺が遊べないだろ。教えるのは全然上手くないけど」
「じゃあ無理じゃん」
「任せとけって」
そんなこんなで水泳教室が始まった。副コーチにマカがつく。他の面子は傍観。遊びゃいいのに。
「浮けるか?」
「怖い」
「浮き輪取れっての。トラウマかなんかか?」
「いんや」
「じゃあ浮ける。ほら」
「マカ、絶対離さないようにね。絶対」
「う、うん」
マカが雹のお腹を持って支え、俺がゆっくりと浮き輪を外す。
「はい、離して」
「ん?」
「ご、ごめんね」
次の瞬間、雹はなんの抵抗もなく沈んでいた。
マカと俺は急いで雹をサルベージする。濡れた髪と恨めしそうな視線が相俟ってさっきよりも怖い。
「離さないでって言ったのにぃ…」
「離さなきゃ浮けないだろ。躰に力が入り過ぎだ」
「足着かないとこで力抜けって言われてもねぇ…」
それから三十分後…
「こんなもん?」
クロールをほぼマスターしていた。
「私にかかればこんなもんでしょ」
「ま、それくらい泳げりゃ十分だろ」
「はぁー、疲れた」
「そんなにすぐに泳げてしまっては、面白くないではないか」
「別にいいじゃん」
「お姉ちゃん、なんで泳げなかったの?って言うくらい上達してるね」
雹たちが話している中、
「そう君…」
「どした?あー、酔ったか」
周りにたくさん人がいるので、マカの精神ゲージが減少しているらしい。マカが俺の肩に頭を乗せ、腕を腕に絡ませる。
「少し、このままでいさせて…」
「好きなだけそうしてりゃいい」
「ありがとね…」
もう昼だし一旦海の家に行くかとも思ったが、マカの調子が戻るまでマカの好きにさせてやることにした。
雹たちは向こうでばしゃばしゃやってるし。
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「あのさ」
現在、海の家。マカの調子も回復したようで、縮こまって俺の隣に座っている。
雹、霙、マカは焼きそば、俺はラーメンを注文し、食べている。
そんな中、雹が焼きそばから顔を上げて焼きそばを噛みながら喋り出した。飲み込んでからにしてほしい。
「なんだ」
「言うべきかどうか迷ったんだけど」
「何を」
「お約束だし言おうかなって」
「言ってみろ。だいたい分かったけど」
「何で海の家で食べる焼きそばって変に美味しく感じるんだろう」
「お前海の家初めてだろ」
いつもと違う場所。でも会話は同じように進む。みんなも服装が違うくらいだし、大して家に居るときと変わらないんだよな。




