非日常、始まり
神社への道は意外と長かった。歩いている内に冷静になってきて、霧咲と手を繋いでいることに気付く。
僅かな恐怖を恥ずかしさが上回ろうとした、その時。
「うおっ?」
白い手が俺の腕や足を掴む。触れられている感覚はある。しかし、邪魔ではない。
下らない噂話だと思っていたさ。あり得る話だと思っていても、噂だと信じていた。
霧咲が落ち着いて俺の手を牽いてくれているお陰で、正気を保てているが、霧咲がいなけりゃ俺も走って逃げてるだろうな、これ……
「大丈夫です。人間を追い返すための威しですから。最近は楽しくなってきてるみたいですが」
この奥にそんな悪戯をする幽霊がいるというのか。というか俺は何故連れていかれているんだ?
「……事情は着いたらお話致します。申し訳御座いません」
また一歩、前進する、人一人、影一つ。この時はまだ何が起こるか分からなかった。
いや……少しは解っていたかも知れないが。
どれほどの時間歩いたのだろうか。道が開け、目的地が見えた。厳かな、不気味な、不思議な、なんとも言えない「気」みたいなものを感じる。神社というには小さいかも知れないが、祠というには大きすぎるか。
そもそも神が住んでいない時点で神社ではないのではないのか……
「時雨様。お待たせ致しました」
霧咲が神社(仮)の奥へ呼びかけた。すると正面にあった階段の辺りに、白い手、白い足、白い……首か?ぼんやり浮かび上がってきた。顔や髪の輪郭が出来、体、というより服が出来上がる。
「ほう。人か」
荒廃神社の周りにあった篝火がひとりでに灯る。今はもうカタチがくっきりと見える。
月影に映える黒色の長髪。ワイシャツに、濃紺のジーンズ。……幽霊にしては、ラフ過ぎる格好に見えるな……
「人間、私が見えるか?というか声は聞こえるか?」
「あぁ、聞こえるよ。姿も見えてる。そんなことを聞くってことは、幽霊ってことでいいんだな?」
俺は目の前の光景に落ち着いていたし、ほぼ理解も出来ていた。何故かと言うと、まぁ、昔の話だ。
「で、霧咲。こいつは誰だ?何故俺は連れてこられたのか、その他諸々、全部説明してくれ」
「私の名前は、風凪 時雨だ。紗奈、私にも説明を頼むぞ」
「何でお前も?」
「今名乗った筈だが。名前で呼んでもらいたいな。それに自己紹介をしてもらっていないぞ」
「あ、ああ……すまん。玖乃川想儀だ。風凪、なんで状況把握が出来てないんだ?」
「今までは特に知りたいと思わなかったからな。後、時雨でいい」
「では説明致しますね」
時雨が階段へ腰を下ろし、隣へ座るよう手で促した。招かれるまま隣に座る。
遠めに見ても綺麗な人だというのは分かったが、近くに来ると、なんというか、整い過ぎだろう。
足は細く長くスラリとしていて……何故か靴も靴下も履いていないが。
下から上へ眺めていると時雨が覗き込んできた。視線がぶつかる。
「うわっ」
思わず距離を離す。
「どうしたんだ、ぼーっとして」
幼い顔立ちの霧咲に対して、時雨は鼻筋がよく通り、切れ長気味の目で大人っぽい感じ。
「?まあいい」
時雨は霧咲へ視線をやり、話してくれ、と言った。
「まずは私たちのことから。時雨様は御自身のことなので少し退屈かも知れませんが」
「構わん」
にわかには信じられないような話。並みの人間には理解し難い、理解しようとしないような話。俺は並みの人間じゃないんだろうなぁ。
霧咲が話し始めた。




