進歩、日々と人を経て
「お姉ちゃんは私が叩き起こしますので、皆さんは先に行ってください」
雹と霙は昨日の夜、玖乃川宅を出てから幽霊退治をしたらしく、滅茶苦茶に暴れまわってクタクタになって帰ってきて、死んだように眠り、今に至る。
普通の授業なら寝たままにしておいてもいいが、本日は終業式。それを聞いた霙が、絶対に起こします、と意気込んでしまった。
「霙は学校大丈夫か?」
「私はまだ時間はありますので」
時雨が起こしたそうにしていたが、何をするか分からないので急いで学校に行くことにした。
「おはよう、マカ」
自分の席にちょこん、と乗っかるように座っているマカに挨拶。
「おはよう、そう君、時雨さん、紗奈さん」
ちなみにマカが言うには、世界中でまともに会話出来る相手は、両親と俺だけらしい。
時雨、紗奈、雹、霙とは会話は出来るものの、なにか壁のようなモノがあるようで。
「おはよう」
「御早う御座います」
時雨と紗奈も挨拶を返す。
「また会えたな」
「うん…ありがとうね、そう君」
「礼を言われるようなことじゃないって」
長い付き合いだし、マカのことはだいたい分かる。
雑談もそこそこに始業のチャイムがなり、生徒が席に着き、教師が黒板の前に立ったあたりで、
「おはよーございます…」
ぐっしゃぐしゃの髪、半分も開いていない眼、足取りはふらふらな少女が教室に入ってきた。
「遅いぞ雛多ヶ宮。早く席に着け」
「ふぁい」
雹は欠伸を噛み殺して返事をする。自分の席になんとかたどり着き、ごん!という音を立てて額を机に叩きつけて寝始める。
教師が点呼を取り始めた。
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教室に戻ってきて、他の生徒がいなくなっても、俺たちは残っていた。主に雹がねだった所為である。
「うにゃ…」
結局雹は終業式中もぶっ通しで寝続けていたらしい。
「あー、でもひとまず終わりかぁ。高校ってこんなに疲れるものだっけねぇ」
発言やくしゃくしゃの表情は、やけに年老いて見える。
「夏休み、か…」
時雨が腕組みをして、何か考え始めた。
そうか…そうだよな。
「夏休み、みんなでどっか遊びに行くか」
俺には、時雨たちに景色を見せる使命があった。こっそり誓っておいたのだ。
「マカ、どうだ?」
「私?私は全然いいよ。楽しそう」
意外とあっさり承諾してくれた。
「行くなら何処がいいかな。海とか?」
「海ですか…いいですね」
「私も賛成だ」
「うん、久しぶりだし…」
「反対!泳げない!」
「ふぅむ、海に決定だな」
「ほんと、泳げないから」
慌てて真面目な表情で時雨を制する。そこまでなのか…というか、
「雹って泳げないんだな」
「日常生活で泳ぐ必要性がないから」
「いいじゃないか、海。というか多数決で決まりだ」
時雨と雹を放っておくとやかましいので、俺が間に入るしかない。ああ、なんでこの場に霙がいないんだ。
「あーもう、騒ぐな。泳ぎくらい教えてやるよ」
「いーの?」
「構わねぇよそんくらい」
なんとか雹も賛成させ、海の他にも幾つか候補を出し、夏休みにこの面子プラス霙のメンバーで出掛けることになった。
「こんな気持ち久しぶり…」
「ん?」
「他の人に誘われても断ってたと思う。でも今は何故か…楽しくて」
「そりゃよかった」
マカの顔は確かに今までよりも明るくなっている。
「そう君がいるからかな?」
にこりと笑みを見せる。長い付き合いなのでマカのことはだいたい分かる。
笑顔の奥に不安があることも。




