訪問、食卓を彩る
「どうしたの?」
雛多ヶ宮家からの帰り道、俺たちはマカの家に寄っていた。マカの家は両親との三人家族で、一軒家。だが、両親の顔は見たことがあるようなないような…あまり記憶にない。
「いや、何となく、な」
あんなマカを見てしまったので、直接見ないと安心出来なかったと言うか何と言うか。
マカは後ろの面子にビビりながらも、
「上がる…?」
「あー、いや…いいのか?」
「うん。大したおもてなしは出来ないけど。私もそろそろご飯食べようかと思ってたから…」
時刻は昼頃。昔はどちらかの家に行って昼飯や晩飯を食べたりしていた。昔は親が作ってくれていたが…
「今お母さんもお父さんも出掛けてるから、私が作るね」
マカの手料理。幼馴染みだけど、初めてだな。
「楽しみにしてるよ」
ん?待てよ。ええと。
「私たちは数えるな」
耳元で時雨が囁いた。つまり…
「四人分?」
俺、雹、霙、そしてマカ。
「流石にそんなに作らせる訳には…俺も手伝うよ」
「ううん、簡単に出来るから、大丈夫」
「手間もだけど、材料費もだし…」
「友だちに手料理を振る舞うのに、そんなの気にしないよ」
はにかむマカ。友だち、か。
「じゃあ、頼む。今度俺も作るから」
「うん」
楽しそうにキッチンに向かう。玄関でビビっていたけど、慣れてきたのかな。昔を知っている俺からしたら、実に喜ばしいことだ。
「あの、初めまして。雹の妹の、雛多ヶ宮霙です」
「えっ、あっ、えっと、東神真夏、です…よ、よろしく…」
ビクついていたマカだったが、雹に雰囲気が似ているからか、警戒心は低め。
親睦を深めようとしているのか、霙は手伝いたそうにしている。
マカは怖がっていたが、数回のやり取りの内に承諾した。
マカが霙に指示を飛ばす。昔のマカなら拒絶してたかもな。
「私も!」
「お、お姉ちゃんは駄目…」
「はぁ?何でさ」
元気よく立ち上がった雹を掌を向けて霙が制止する。雹は料理下手なのか。
「本人は自覚してないんです…というか自分で食べたことなくて、いっつも作っては私が食べて感想聞かずにどっか行っちゃうんです」
小声で愚痴る霙。可哀想に。
「経験は必要だと思うんですけど、今は流石に駄目だと…あっ、お姉ちゃん!もう…」
雹はいつの間にか霙の横を擦り抜けてキッチンに行っていた。
「時雨はいいのか?まあ今は居ないことになってるけど」
「私も料理は上手ではない。あいつと同じなのは腹立たしいが」
「何でも出来るイメージだけどな、時雨って」
「良くも悪くも生前の能力も反映されているようでな」
料理する機会もなかったか。
「霙が言うように経験を積めば出来るようになるのだろうか」
「出来るだろうよ。何なら教えてやるぜ」
「……機会があれば是非」
微笑む時雨。その笑顔はとてつもなく綺麗だった。
「そういや、生きてたときの時雨は何が得意だったんだ?」
「ふむ…むぅ……何だろうな」
腕を組み、考え込む。
「何が得意かなんて意識したことなかったな。まあ生前をあまり憶えていないことも一因か」
憶えていない?
「なにせ七百年も前の話だ。憶えているのは、死んだ理由くらいなものだ」
「そりゃそうだな」
「逆に問おう。想儀は何が得意だ?」
そう言われると…
「料理は得意って程じゃないし、運動も出来るってだけで、これまた得意かどうかは…絵は何故か酷評されたし、霊が見えるってのは得意って言っていいのかな」
「駄目だろう」
得意、か。
「霊と仲良くなれる?」
「特技じゃないのか、それ」
「じゃあ無い」
「悲しい男だな」
「うるせぇ」
暫く時雨と話していると、
「出来たよー」
意気揚々と雹が皿を運んでくる。白ご飯、レタスとトマトの簡単なサラダに、麻婆豆腐。
「少ないけど…」
「いいや。十分だよ」
「ん、ありがと」
恥ずかしそうに俯くマカ。
「では」
俺が手を合わせると、皆も同じように合わせる。雹だけは掴んだ箸を慌てて置いてからだったが。
「言うつもりだったよ、ほんとほんと」
はいはい。
「いただきます」
賑やかな食事が始まった。主に雹が騒がしいのだが。




