決戦、流れるまま
夜が明け空に陽が昇る頃、俺たちは夜中に幻影と出会した河川敷へと来ていた。
「本当に此処に現れるのか?」
同じ場所に現れるという保証はない。
「来るんじゃなくて呼ぶの。それくらいは簡単に出来る。んなことより準備はいい?」
雹が俺と時雨に向かって問う。時雨は静かに頷く。俺もそれに倣って頷く。
気合いを入れろ。生死を賭けた、やや分の悪い戦いが始まる。
「んじゃ後は作戦通りに」
そう言ってポケットから一枚の札を取り出す。座り心地の悪し砂利の上に胡座をかき、札を両手で祈るように持ち、何かを呟く。
小声なので聞き取れないが、聞き取れたとして理解は出来ないだろう。
今雹は幻影を誘き出している。此処に居るという気配をばらまいているのだ。原理は知らん。
誘き出した後は、時雨が幻影との戦闘を行う。その間に雹は幻影の後ろに回り、一撃必殺を用意する。
つまり数の利を活かした戦いとなる。正直それしか勝ち目は無いのだが。
そして俺が何をするかというと…
「来た!」
緊張が走る。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「今度は勝たせてもらうぞ」
私は拳を構えて真っ正面に立つ幻影と対峙する。その戦いは唐突に始まった。
幻影が一気に距離を詰めてくるが、捉えられない訳ではない。昨夜の戦いでもある程度の回避は出来た。
「問題は…」
身体能力は別として、七百年で得た特殊能力を軒並み失っている今、素手では限界は見えている。
幻影が長刀を振り下ろす。見切り易い攻撃だったが、威力は当然高い。これを右に避け、次の攻撃へ備える。
私の役割は幻影の撃破ではない。あくまで時間稼ぎである。が、
「隙が無いな…」
回避の後に左足での蹴りがくる。向こうの体勢故に威力は高くはないが、此方としては威力関係無しに、攻撃を食らう訳にはいかない。
蹴りを外側でなく、内側、懐に飛び込んでかわす。相手の得物は小回りの利かない長刀。
対して此方はリーチで劣る徒手空拳。
思い切ったほうがいいだろう、と考えた結果だったが。
「チッ…」
鼻先を長刀の柄がかする。攻撃は無用というのに欲を出したか。長刀の鍔を手刀で抑え、空いた左手で長刀を握っていた両手を抑える。
このまま左足で相手の右足を踏み、躰で押し、突き飛ばす。
体勢を崩せば…
「貴様などに…!」
幻影が漏らしたその声は、酷く憎悪に満ちていた。私の躰は浮いて、左に吹っ飛んでいた。
何れ程の力だろうか。それなりに力を込めたつもりだったのだが。
長刀を引きずり、姿が消え、次の瞬間には袈裟斬りをするであろう構えで幻影が迫っていた。
「少し早いか?だが此れはかわせそうにない。すまないな」
長刀『断黒』は空を斬る。その一瞬を過たず。
「ちょっと早いね。別にいいけど」
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時雨は雹の中へと退避していた。雹は聖刀『無銘』と『風凪』を構え、目にも止まらぬ速さで幻影に接近する。
両刀による本来かわせそうにない攻撃。が、一瞬早く、幻影が迎撃体勢へ移る。
「足りなかったか…」
雹は極限まで脚力を強化していた。筋力ではなく、印による瞬発力の強化。だがそれは少し足りなかったようで。
幻影の長刀が突き出される。雹は一度付いた速度を止めることも出来ず。
どん、ザシュ。
爆発音に続き、刀が何かを切り裂く音。
「死…ね…」
此処からでは聞き取れなかったが、口がそう動いたのは見えた。
俺が放った『風の塊』とやらが見事命中したらしい。怯んだ隙に『無銘』と『風凪』の二本が、幻影の左胸にある心臓…呪いの根源を貫いていた。
「いてぇ…」
今やボロボロになった札を持っていた右手、右腕に激痛が残っている。
『それ、誰でも簡単に風を打ち出せる札。威力は無いに等しいけど、隙を作ることは出来ると思うから』
そう言われて使ったが…確かに痛みを伴うとは言われていない。
「気を付けて!」
雹が叫びながら俺の方へ走ってくる。何が起こる?右腕が痛すぎて何も考えられない。
俺は落ちていた。




