確認、日常から離れて
時雨は回復し、状況を説明する。
「護れたからいいが…次からは逃げろと言ったら逃げるんだぞ」
見捨てる訳にもいかないだろ…と思ったが、今は頷いておく。
ベッドの頭の方に雹。足の方に時雨。俺は椅子へ座る。
「さて、と。まずはこの世界が何であるか」
雹が話し始める。
「雹は知ってるのか?」
「まあね。元の世界から侵入した身だし」
「侵入?」
「私はこの世界に居なかったから…まあそれはどうでもいいんだよ。この世界はあいつが造り出した幻影だ」
「どういうことだ?」
「話すっての。この世界はある二人を殺す為に造られた世界。その二人ってのはお前らなんだけど」
「何で殺されにゃならんのだ」
「そこまで知らん。あいつに聞け。あいつってのは分かってると思うけど、偽者の私。背伸びてたけど」
「どういう仕組みなんだ?」
「この世界は夢。願望が別世界を生み出した」
聞いても分からん。もう少し詳しく。
「簡単に言うとパラレルワールド。そこに想儀と時雨は引き摺り込まれてるってこと。この世界を維持しているのは絶大な意思。つまり呪いの一種」
「呪いを解くまで出られない、と」
「私は自由に出られる筈だったんだけど、出口閉じちゃって。根源であるあいつ…幻影を消滅させない限りは」
「紗奈や霙、マカの異変は何なんだ」
「人が居なけりゃ不自然でしょ。役者が居ない舞台と同じになっちゃう。設定はどうでもいいの。ただそこに居るだけで充分。寧ろ居なければ世界は世界でなくなる」
「この世界の俺と時雨はどうしてるんだ?」
「この世界の想儀と時雨はお前ら。お前らが偽者じゃ殺せないじゃん」
つまり俺たちは今、元の世界に居ない?
「正解。朝起きて吃驚したよ」
「どうやってこの世界に居ると分かった?」
「紗奈が座標を見つけてね。『極めて近くに居るけど届かない場所』だって。後はその座標に飛ぶだけ。紗奈が私を飛ばしたんだけど、繋がり切っちゃったみたいで」
紗奈でもそんなミスをするのか。
「とにかく。早く幻影を倒さないと逆に殺られるよ」
「私の力が大幅に削られているのだが」
「この世界は幻影に有利になるように造られた世界だからね。出来うる限りのセーブを行っていると思う」
「私を戦力に数えるのは難しいぞ」
それを言うなら俺なんか数えられないぜ。
「私もだいぶ性能を落とされてる。先読み出来るから回避は出来るけどさ」
「勝てるのか?」
「基礎じゃ勝ってるんだ。あとね、その為の武器だよ」
雹が不敵に笑う。
「これ、雛多ヶ宮に伝わる魔刀」
先程長刀を受け止めた小刀。なんとも無骨で、鍔はなく柄も剥き出し、鉄を鍛えてそのままの刀。
「凄い昔にご先祖様が鍛えた、霊力が秘められた刀。名前は『風凪』だってさ」
「ほぅ?」
時雨が間抜けな声を出す。
「どしたの?」
「私の苗字だな、と…」
「あーそうだっけ?」
「私と関係あるのか?」
「さあ?成仏してご先祖に聞いてきて。まあ文献が残ってるかもだけど」
それは今はどうでもいい。
「それだけなのか?」
幾ら凄かろうがそれだけじゃ不安なんだが。
「とっておきが有ったんだけど盗られちゃって」
「誰に」
「あいつに」
幻影が振っていたあの長刀か?
「そう。あれがありゃ勝てるかもなんだけど」
「何であいつが持ってんだ」
「あの長刀…『断黒』って言うんだけど…この話をすると面倒だから帰ってからね」
「霙が持っていたものと同じものか?似てるように見えたが」
「霙が持ってるのは『爛赤』。これも同じ系統で…ってこの話は終わり!どうすれば勝てるか、でしょ?まだ一振りあるんだから」
そういって腰に差していた脇差しを鞘ごと抜く。
「聖刀『無銘』。あらゆる魔を祓い、人々を救った、雛多ヶ宮でない人物が鍛えた、想いが籠められた刀」
雹が刀を鞘から少し抜く。僅かに見えた刀身は、部屋の明かりを反射し、神々しく光っていた。
「仕舞ってくれ。この距離だと息苦しい」
時雨は苦しそうにしていた。途轍もない力が秘められているのは確かなようだ。
「この二本の性能は高い。それでも幻影に勝つには少し遠い。『無銘』が私に合わないんだよねぇ…向こうには『断黒』があるし…時雨」
「何だ」
「憑依は出来る?」
「それは出来るみたいだが、今はしたところで大して変わらんぞ」
「出来るならいいや。ではこれにて状況確認終了」
雹が咳払いをする。
「これより作戦会議を行います!」




