夜、始まり
時刻は二十一時半前。正門の近くまで来た。と、そこには既に一つの影。
霧咲紗奈はこちらに気付くと軽く会釈し、
「今晩は」
と、挨拶。俺も返す。
黒い髪と闇夜に映える白いチュニックに、水色のミニスカート。学校での彼女とはまた違った印象を受ける……ような気がする。
霧咲を見る度に、何か違和感を感じる。ぼやけるような、曖昧な違和感。
「私の名前、覚えていますか?」
唐突な質問。驚いて返答が少し遅れてしまった。
「ああ、覚えているよ。霧咲紗奈……だろ?」
「はい。……良かった……」
彼女は安堵の表情を浮かべる。顔からはそれ以上の情報は得られなかった。
時刻は二十二時過ぎ、最後の一人が来て、出発。
俺の少し前に三人。すぐ横に一人。
前はともかく、俺の方は特に会話がある訳でもなく、たまに霧咲を視界の端に捉えつつ、ただ歩く。
学校のすぐ裏にあるためそんなに距離はない。神社は茂みの奥にあリ、元々周りが見えにくい上に夜なので、懐中電灯で照らしつつ、目を凝らさなければならない。
確かに、何か出てもおかしくはなさそうな場所だ。
今回の肝試しのルールは、チームに分かれて一組目が札(手作り)を神社の分かりやすいどこかに置いてくる。そして二組目がそれを回収、という流れだ。
何故か霧咲が俺を相方に選んできた。なんだ?意識されてんのか、俺。大して怖くはないが、もしカッコ悪いとこを見せてしまったら恥ずかしいじゃないか。
一組目、男三人。意気揚々と手を振り奥へ歩いていった。その姿は瞬く間に見えなくなった。
「これ、大丈夫なのかねぇ……」
独り言。あわよくば霧咲への問いかけ。
「怒らせなければ、大丈夫だと思います」
答えてくれた。
「怒らせるって……幽霊をか?」
「はい。手に負えないかも知れませんから」
そりゃ幽霊だから怒らせたら恐いだろうが……偏見か。
また暫く会話が無くなる。と、
「うわあぁぁぁぁ!!」
幾つかの悲鳴。おおよその予想は出来る。
思わず身構える。霧咲はそこに突っ立ったまま動かない。俺がなんとかしなきゃならんのか……?
正面から三人が凄い勢いで走ってくる。そして俺らが見えてないかのように、過ぎ去っていく。
「あ……おい!」
俺の声は届かず三人の姿と声が消えた。
「なんだってんだ……」
霧咲の方へ向き直ると、霧咲は先程と変わらず立っていた。
「あー……帰ろうか。肝試しどころじゃなくなったしさ」
少し間を置いて、
「行きましょう」
霧咲は急に俺の手を掴んで、"神社への道"の方へ歩きだす。
「な、なんでだよ!?」
怖がってる訳ではない……いや、少しくらいは怖いな。
それ以上に霧咲の行動が不可解だった。
「行かなければ。七百年も待ったのですから……」
全く意味が分からなかった。抵抗する気も無かった。ただ俺は、霧咲に手を牽かれて神社に向かうしかなかった。




