春、始まり
ぼーっと空を見る。今日は雲一つない青空。どうしようもなく綺麗に見える。
とか考えながら俺の机の周りに集まっている友人たちの会話を断片的に聞く。今日はそんな気分だ。
「荒廃神社に幽霊が出る」
「白い手が~」
断片的にも程があるだろう、と我ながら思う。
荒廃神社というのは、この高校のすぐ裏にある寂れ尽くした神社……らしきもの、のこと。それがいつから存在しているかは分からない。すごく昔のモノというのは見た目で判るが、どっかに年号が刻まれてる訳でもなし、文献が残ってる訳でもない。神社と呼ばれてはいるが、鳥居もなければ境内、賽銭箱などもない、ただの祠のように見える。
どうやら大昔には小さな鳥居もあったらしいので、その名残だろう。
幽霊や白い手というのは、ここを調べた人間が悉く霊的なモノに怯え逃げていく、その際に主に見られる現象が、「白い手に掴まれる」というもの。そしてこれは幽霊の仕業ではないのか、という噂が立ち……
そう、ただの噂話だ。俺が産まれる前からあった話。
「玖乃川ー、聞いてるかー?」
「聞いてねぇ」
誤魔化すようなことではないだろう。俺は素直に答えた。
「まぁいいや。今日の夜暇か?」
「暇だけど事による」
「肝試しに行こうぜ!」
分かってはいたが……
「んー、どうすっかなぁ」
あまり乗り気ではない。まず幽霊関係はいい思い出がない。ある方が少ないと思う。
だけど絶対嫌という訳じゃないし……なんて色々考えていると、
「荒廃神社へ肝試しですか。私も同行させていただいてもよろしいでしょうか」
綺麗な声。青空が霞む程に。
俺の席は窓際の列の一番後ろ。その机を男四人が囲んでいる。その女生徒は、俺の右横に立っていた。
気配は全く感じなかったが、そこに居ることを不思議にも思わなかった。
「あぁ、えっと、その、その心霊スポットは前から気になっていたのですが、一人で行くには少々心細くて。私の周りには行きたがる人もいませんし……。もしよろしければ御一緒させていただければ、と……」
少女は所々に「えー」だか、「あー」等のシンキングタイムを挟みつつ、輪に入れてくれないか、と話しかけてきた。
少女はそれだけを言うと、黙った。俺たちの返答を待っているのだろう。
俺たちが中々返事が返せないのは、あまり女性との会話をしたことがないから……だけではない、と思う。
特にその少女はなんかこう、オーラみたいなものが他人と違うように見えた。
髪はショートで瞳は澄んだ黒。小柄だがどこか堂々とした容姿。その口調に合うような落ち着いた雰囲気の表情。
つまり、話しかけ辛い雰囲気。丁寧な口調が余計にそう感じさせる。
クラスは同じ。名前は確か、確か……
「申し遅れました。同じクラスの霧咲 紗奈と申します」
俺の疑問を読み取ったかのように、少女は口を開いた。
同じクラス。俺は知っていたが、周りは同じクラスと聞いた辺りで我に返ったかのように、口を開き始めた。
「えーっと、うん、いいよ。男ばっかだったし……」
一人がそう言うと、周りも同意の言葉を次々口にする。
「有難う御座います」
霧咲は浅めだが恭しく頭を下げた。俺たちも思わず釣られて頭を下げる。
「じゃあ、今日の二十二時に正門前で」
霧咲はその言葉に軽く相づちを打ち、俺の方を向く。
「玖乃川……君も来られるのですよね?」
柔らかな笑顔。真意は分からない。
「あぁ、まあ暇だしな」
俺がそう言うと霧咲は笑顔のまま顔を軽く傾け、
「では」
と言い残し去っていった。残りの昼休みはいつも通り過ぎていった。何事もなかったかのように。




