仕事、始まり
「これが私の晩飯だと?」
唐揚げにサラダ、グミとラムネとキャンディを目の前にして、雹は驚きを隠せない。
「これはいらない」
唐揚げとサラダを寄せて、菓子を押しのける。
「折角私たち三人が選んで買ってきたんだ。嫌いじゃないなら、食べるべきだろう」
「晩飯に菓子食う訳ないだろ!何で炭水化物が無いんだよ」
「冗談だよ、ほら」
冷凍しておいたご飯を解凍し、茶碗に入れて差し出す。雹の機嫌は即戻った。
「想儀しか味方がいないな。いや、霊は味方じゃないけど」
「紗奈は大丈夫だろ、多分」
やり取りを背筋良く見守っていた紗奈は微笑む。
「まるで私は問題があるような言い方だな」
笑いながら言う時雨。
こいつらが来てから全然日は経っていない。なのにこんなにも騒がしく、楽しい食卓は、久し振りな気がする。
笑いながら過ごす食卓は、こいつらと会ってから初めて楽しさが疲れを超えた瞬間だった。
「家でのんびりしてていいのか?」
「何で?」
風呂上がりにソファで菓子を食べながら、くつろぎまくっている雹。遠慮されるのも気が引けるが、ここまで遠慮しないのも凄い。
「何だっけ…えっと…斬霊…だっけ?しなくていいのかって」
「基本日付が変わってからだから、まだだね。今日はやってないけど」
「斬霊、見てみたいです」
幽霊のくせに興味津々な紗奈。紗奈が行くとなると、全員行かなきゃいけない訳だが。
「私も(雹がヘマをする所を)見たいな」
「なんだよ、今の間は」
俺にしか聞こえていなかったようだ。
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時刻は零時二十分。
「霊を見つけるまでは、ぶらぶら散歩。悪そうな霊を見つけたらボコる」
ジャックナイフを指に挟んで揺らしながら進む雹。基準が分からんし、俺には違いが分からん。
「返り討ちに遭わないといいな」
時雨はニヤニヤしている。
「まあ黙って見てろよ」
「っと、あれは幽霊なのでは?」
紗奈が指を指した場所を見てみると、電柱の傍に黒い靄が溜まっていた。よくないものである気はするが、果たして。
「幽霊ではあるけど悪霊ではないよ」
「分かるのか」
「斬霊師の称号は伊達じゃないからね」
「ほっとくのか?」
「あれは大丈夫。無闇はよくないよ」
見えはするが、基準はやっぱり分からん。
「お、発見」
雹が見据えた先には今まで見つけた霊と変わらない、黒い靄。
「んじゃ、片付けてくる」
「そんなリーチの短い武器で…それに退治は初めてなんだろ?」
「誰でも最初はある。大切なのは気合いを空回りさせたり、緊張しないこと」
良いことっぽいことを言う。
「受け売りだけど」
ぶち壊しの言葉を置いて、霊に向かって走る。霊が気付いて応戦しようとするが、雹の一閃。
後ろに回り込んだので何をしたかは分からなかったが、静かに霊は消えた。
「ふーぅ、こんなもん?」
「あまり映えないな」
「そうですね。期待とは少し異なりました」
時雨や紗奈だけで無く、雹も手応え無さげな顔。
「まあ、楽に戦えるならいいじゃないか」
俺は霊が消えたことに安堵したのか、割と悪くはなかった。
その後は特に出会わず、一時間後には帰宅。紗奈も時雨もあまり満足そうではなく、雹も斬り足りない様子。
俺?眠い。微睡みながら歩いてた。
夢を見た気がしたが、覚えていられなかった。




