生活、淡々と
「今は周りに姿見えてるのか?」
教室に入り、昨日置いた席に着く時雨。
「勿論。椅子が勝手に動いたら怖いだろう」
正に幽霊の仕業になるな。
「しかし本当に気付かないとは…どうなってんだか」
あまり深く考えないようにはしている。気にはなるが。
「教科書とかはどうすんだ」
「別に、授業を受けに来た訳では無いのだから必要無い。それに、私たちが今更、何を学ぶことがあると言うんだ」
「私は真面目に授業を受けていたのですが…」
「学校に来る意味は」
「想儀から離れられんと言っただろう。そういう意味で無いならば、遊ぶ為だ」
「そうだったのですか」
「わざわざ制服着たり、席用意したりする必要も無かったんじゃあ」
「分かっていないな。気分だ」
鼻で嗤われ、自慢気に言われた。
「高校で遊ぶなんて、やること限られてるだろ」
「まあ、人間生活と学校生活を体験出来れば、それでいいさ。飽きたら辞めればいいのだから」
そういやそんなこと言ってたな。
時雨は座り心地を確かめながら、物珍しそうに教室を見渡していた。こういうところは、可愛らしいものだ。
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三時間目が終わった。紗奈は教科書を捲り、ノートを書いていた。本当に学んでるんだな。後で見せてもらうとしよう。
時雨は授業中ずっと、腕組みしながら船を漕いでいた。暇なんじゃねぇかよ。
しかし、四時間目には、紗奈からノートを一枚千切ったものを貰ってそれに何かを書いていた。
「気になるか?」
俺がちょっと机を覗き込んだだけで、時雨は楽しげに訊いてきた。見せてもらった。
「………」
凄い上手い猫の絵が描かれていた。それだけ。
「どうだ、上手だろう」
胸を張る時雨。ぴったりの制服を胸が押し上げていて、つくづくスタイルがいいんだな、とか思っていると、紗奈が自分の机からノートを取り出し、此方に持ってきた。
「実はさっき、私も猫描いたんですよ」
可愛らしい猫が走り回っている。大真面目に授業を受けている訳ではなかった。遊び心はあるようだ。
というか何故、二人とも同じ時間に猫を描いていたんだ。その所為でこの昼休みは猫の話で盛り上がってしまった。二人は。
犬派の俺はイマイチ話に共感出来ず、ただ二人が楽しそうに喋っているのを聞いているだけだった。
二人が盛り上がっている隙に俺も犬の絵を描いてみたが、変、と言われた。何か悔しい。
絵心は並みにあるつもりだったんだがなぁ。
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五時間目が過ぎ、六時間目、体育の時間。
体育館で男女ともにバスケ。何チームかに分けてやるので、プレイしているチーム以外は休憩となる。
その時に時雨と紗奈の姿を探し、観戦していたが…
二人とも同じチームで、バスケ経験者ばりの動きでパスを回し、シュートを決める。流れるような動きで、完全に息が合っていた。七百年も一緒に居ればああもなろう。
それ以上に、運動神経いいんだな。運動神経を超越した何かかも知れないが。
「一日、どうだった?」
学校生活がどんなもんだったかを聞いてみる。
「体育以外は暇だな。体育も体を動かせるだけで、紗奈が居なければパスもまともに出来ないぞ、あれは」
お前らの動きが超越しているんだよ。
「私は時雨様と一緒にプレイ出来て、大変楽しかったです」
「そう言ってもらえるなら、幸いだな」
「そういえば、どうやってバスケの動きとか、知識を手に入れたんだ?」
「知識は全て、私が知ったことを御伝えしていました。動きは…何となくでしょうか」
「人間を超えていると言っても過言では無い。反射神経や運動神経も比にはならないぞ。その気になれば、スポーツならば大体出来る気がする」
やっぱり予想は当たっていたか。人の身ではないから人を超える云々も無い気がしてきたが。
「数学とかも、退屈なだけだな。どうしたものか…」
真剣に考え始めた。取り敢えず、雹のことも気になるし、今日は早々に帰宅することにした、が、帰りにスーパーに寄る。
「雹は何が好物なんだろう」
「菓子でも買ってやればいい」
適当にグミの袋を掴んで、カゴに入れた。紗奈も便乗してラムネを入れる。
ああ見えて十九なんだから、子ども扱いは…そう思いながら俺も、棒付きキャンディをカゴに入れた。
後は惣菜を買って、と。
「何か食べたいものあったらカゴに入れていいからな」
そう言うと、時雨は納豆を、紗奈は躊躇っていたが懐中しるこをカゴに入れた。渋いチョイスだ。




