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《紗奈、同時異話》

 玖乃川様がお風呂から上がり、雹さんが入る。時雨様が居るとしても、今がチャンスなのでしょう。

「…玖乃川様。少し御話に御付き合い、宜しいでしょうか?」

「ああ、いいよ」

「外の空気を吸ってくる。適当に戻ってくるからな」

 時雨様は直ぐにリビングから出て行った。後でしっかりと御礼をしないと…

 玖乃川様と、テーブルを挟んで正面に座る。

「その…少し恥ずかしいことなのですが…名前の呼び方についてのことで…」

「呼び方?」

「時雨様のことを下の名前で呼ばれていますが、私だけ苗字、というのがその、気になりまして」

 確かにな、と頷く玖乃川様。

「もっと玖乃川様と親しくなりたいと思い、話してみました。…失礼でしたでしょうか?」

「失礼なことはないよ。俺も若干思ってたし。じゃあこれからは、紗奈、でいいのかな?」

 紗奈。時雨様から戴いた、大切なものの一つ。

「俺のことは、想儀、で」

「想儀様…何故か不思議な感じがします」

「ただの違和感だろ、多分」

 そうかも知れない。しかし此れには其れ以上の意味がある。そう想うことにした。

 想儀様から預かった大切なもの。時雨様からも……雹さんからも。

 名前があるからこそ私は此処に居る。此処に居られる。他の方とも接することが出来る。

 私と此世このよ、私と誰かを繋ぐ大切なもの。

「有難う御座います」

 頭を下げる。私と繋がっているそう多く無い全ての方に。

「そんな大層なことじゃないって」

 想儀様は静かに微笑んでくださった。本心なのでしょう。

 しかし心の奥底では分かっておられると思います。このことが如何に大切なことであるか、が。

 雹さんが風呂場のドアを開く音が聞こえ、その後直ぐに時雨様がリビングへ戻ってきた。

 私はもう一度、御礼を言うと、気持ち晴れやかに、時雨様の元へと向かった。



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