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非日常、手一杯

 話を纏めると、雛多ヶ宮雹は高校を卒業後、親の後継ぎとして斬霊師になったが、今まで一度も斬霊をしたことがなかったそうだ。

 しかし、その意気などは、熟練者に見えなくもなかったが。

「そもそも模造刀でどうやって斬るつもりだったんだ」

「模造刀でも何でも、刀じゃなくても別にいい。刃物ならいいの。ペーパーナイフ程度でも、”斬る”ことが出来るなら、斬霊は出来る」

「逆に言うと、刃物がなければ出来ないという訳か?」

 時雨が興味有りげに、雛多ヶ宮に問う。

「完全にはね。それなりに対処法はあるよ」

 雛多ヶ宮は、テーブルの上に置かれている模造刀を手に取り、抜く。

 その手付きは鮮やかで、やや危なっかしい。

「せい」

 雛多ヶ宮は唐突に模造刀を振り上げ、時雨の頭目掛けて――!

 ゴツン、と音がした。

 真剣な顔の雛多ヶ宮。真顔の時雨。少し振り向くと、軽く驚いたような表情の霧咲。俺はあまりのシュールさに、吹き出してしまった。

「何笑ってんの」

「何を笑っている」

 時雨と雛多ヶ宮に同時にツッコミを入れられてしまった。

「いや、急に真顔でそんなことするから…」

「なんで消えないの?」

 雛多ヶ宮はそのままの表情で疑問を口にする。その質問には、霧咲が答えた。

「単に力量不足というのも考えられますが、時雨様の魂は玖乃川様の中にありますので、玖乃川様が死なない限り時雨様と私は消滅しません」

 雛多ヶ宮は、俺の予想に反して特に反応を見せなかった。驚くとかすると思ったのに。

 いや、少し間を置いて首を傾げた。そして納得したふうに、

「あー、幽霊が見える時点でお前、只者じゃないもんねぇ。こんな親しくしてるなら何か事情があったと考えるのが妥当、か」

 暫く俺を眺めてこう言った。

「お前、幽霊に懐かれやすいんだね」

「どういうことだ?」

「そのまんまの意味。幽霊に懐かれやすい体質なの。私はそういうの、分かる人だから」

 そんな不思議体質いらないんだけどなぁ。

「技術腕前は兎も角、能力はあるようですね」

「宝の持ち腐れのようにも見えるがな」

 時雨が挑発するような態度を取る。模造刀直撃のお返しかも知れない。

「じゃあお前を消滅させればいいのか?」

 雛多ヶ宮は俺に刀を向けてきた。その刀の鋒を時雨が掴み、砕いた。欠片がテーブルの上に零れる。

「想儀に手を出すと言うなら容赦はせん。必ず地獄に叩き堕としてやる」

 こいつ…そこまではしなくていいけど、なんか…ありがたいというか、一気に好感度が上がったような気がした。

「ふぅん」

 雛多ヶ宮は、先が砕けた模造刀を鞘に納め、立ち上がった。ほんと、背が低い。

「玖乃川が死ぬまで、お前らを見張ってやればいい訳だ!」

 その表情には、笑顔が浮かんでいた。悪戯を思いついたような、無邪気で嫌な予感を思わせる、そんな、可愛らしい笑顔。

 実年齢ではなく、見た目的にはとても似合っていて素敵だった。

 俺は出来るだけ見惚れたことを悟られないように、もう一つ思ったことを言葉にする。

「何でこうも突飛な考えな奴ばっかなんだよ」

 疲れるのは俺だけだっていうのにさ。

「自分がそうなんじゃない?類友って言うじゃん」

 雛多ヶ宮は、さっきまでの真剣さなんて吹き飛んでいったかのように、親しみやすくなった。年上でも、年下でもなく、まるで同級生であるかのような雰囲気になった。

 空気も軽くなった気がする。案外、凄いやつなのかも知れない。

「これからこの家に世話になるから、よろしくな」

 最早俺がおかしいのかと思うくらいだよ。

「いいよな?」

 目をキラキラさせてこっちを見てくる。子どもみたい、なんて言ったら怒るんだろうなぁ。

「どうせ羨ましいだけだろう」

 時雨がニヤつきながら、身長的にも態度的にも雛多ヶ宮を見下している。

「はぁ、仕事だからな、これも。私も大変だなー」

 張り合うように雛多ヶ宮が返す。雛多ヶ宮のことを子どものようだと思ったが、二人ともだ。いい関係は保てそうかな。

「あ、時雨と霧咲は仕方ないとして、言うこと聞けなかったりしたら追い出すからな」

「私の方が年上だけど?」

「家の持ち主は俺だが。意見は?」

「…無いです。ま、聞き分けはいいよ。ほんとほんと」

 適当に手のひらを振る雛多ヶ宮。ああもう、なるようになりゃいいか。

 と、時雨と霧咲の表情を掠め見る。

 時雨は、微笑んではいるが、どこか悲しげというか…よく分からない。

 一方霧咲は、時雨と雛多ヶ宮を見守りながらも、微笑みすら浮かんでいなかった。



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