非日常、加速
「遅い。とっくに授業終わってただろうが」
正門を出ると、目の前に少女が一人立ちはだかった。背はかなり低く、容姿も幼女と言って差し支えない程。
霧咲も幼い容姿だと思っていたが、こちらは完全に小学生レベル。
容姿に関して何より目を引くのは、肩ほどまで伸びた輝くさらさらな銀髪。日本人のように見えるが、染めているのだろうか。
そして何故か、左手に刀を携えていた。幼女の身長よりも長く、とてもじゃないが似合っていない。
「知り合いか?」
「いや、知らん。学校でも、少なくとも一年生では見たことない」
少女はゆっくりと近づいてきて…
「斬る」
刀を抜いて鞘を捨て、こちらに突進してきた。
「なっ!?」
色々急過ぎて訳が分からん…!
「お任せを」
霧咲が俺たちの前に出る。
少女の渾身の縦振り。それは俺にも見切れる程だった。霧咲はそれをあっさり躱し、掌底を繰り出すが、幼女はいつの間にか刀も届かない位置まで退いていた。
「ま、これくらいは避けるよね」
幼女は刀を構え直す。その視線は、真剣そのものだった。俺は、この幼女には勝てないと思ってしまう程に。
「まあ、待て」
時雨が俺と霧咲の前に出て、幼女を制止する。
時雨と幼女の身長差は30cm程もありそうだったが、それでも幼女が怖気づくような態度を取ることはなかった。
「話し合いは通じるか?」
「こっちの台詞だけど」
「そうか。ならば場所を変えようか」
俺の家で話し合うことにした。何をしたらこんな厄介事を巻き込めるんだか…
ちなみに、刀はペーパーナイフ程の斬れ味の模造刀だった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「想儀、時雨、紗奈、ね」
雛多ヶ宮 雹と名乗った幼女は、案外大人しく椅子に座って、対面に座る俺と時雨、その後ろに立つ紗奈を順々に睨んでいく。
「それで、いきなり斬りかかってきた訳を…」
それなりに丁寧に扱おうと思うと、なんだか面接のようになってしまう。
「私は残霊師。この人生における私の役割は、霊や妖怪の類を斬ること。除霊なんかと大体一緒だと思ってくれていい」
幼女は見た目程子どもではないように思える。喋り方や目付き、態度なんかが、幼女のそれではない。
「あの祠に居たの、お前たちだろ。今朝様子を見に行ったら祠が消滅してた上に、祠と同じ気が学校の方から感じたからな。待ち伏せしてたんだ。それなのに出てくるのが遅いもんだから」
幼女は見るからにイライラしている。そう怒らないでほしい。
「落ち着いてください。詳しく話が聞きたいのです」
霧咲がやんわりとした口調で幼女をの怒りを鎮めようとする。幼女は溜息を吐いて、俺に一瞬視線を合わせた後に、時雨の方へ向いた。
「私の仕事は悪霊、怨霊、妖怪なんかを叩き斬ることだから。だから斬る」
「別に悪霊ではないがな」
「それを確かめようとしたんだよ。ま、いいや。他に聞きたいことないの?」
幼女のイライラはどうやら治まってくれたようだ。
「その…年齢は?小学生か?」
「馬鹿…」
隣から小さく時雨の声が聞こえた。と同時に、幼女の表情が大きく怒りに変わった。眉間にこれでもかとシワを寄せ、舌打ちまで聞こえてきた。
「その、女性に年齢の御話は…」
後ろから霧咲の声。ああ、これは…ミスったな…
「ああ…すまん…忘れてくれ」
「19歳。お前より年上だぞ」
指を指された。
答えてくれたことにも驚きだが、なんとも信じがたい数値だった。思わず「マジか?」と言ってしまう程に。余計に怒らせてしまったのは言うまでもない。
兎も角、信じられないことはたくさん起きているので、気にしないことにした。
非日常が始まってからまだ二日しか経っていないのに、なんでたくさん起きているのか、俺は不思議に思うばかりだった。




