朝、始まり
朝、携帯のアラームに起こされた。
カーテンを通して太陽光が眩く差し込んでいるところを見ると、今朝は晴天のようだ。
ベッドを見ると、二人の姿は既になかった。
一階へ降りると、
「あ、御早う御座います、玖乃川様。朝御飯の準備もう少しで終わりますので、座って御待ち下さい」
やたらに「御」が多い言葉で挨拶された気がする。
霧咲の手には、焼き鮭が乗った皿。
「おはよう。何を用意するかの相談でかなり時間を使ってしまったが、間に合ってよかった」
「おは…よう。何でまたそんなことを?」
寝起き且つ、今までと違う光景なので頭が追い付いていない。とりあえず、昨晩のことは現実であることは確認。
テーブルの上を見ると、トーストとバター、ココアに、剥いてある林檎。
「何を用意すればいいのか分かりませんでしたが、とりあえずそれらしい物を並べてみました」
霧咲が、洋食なテーブルに焼き鮭の皿を置く。
「これからは、出来る限り私たちが家事を行うことにした。異論は聞くだけ聞いてやろう」
仁王立ちで偉そうに構える時雨。
「…異論はないけど…いいのか?」
「私たちはここに御世話になる身ですから。これくらいのことは当然です」
霧咲は宜しく御願い致します、と頭を下げる。
まあ楽出来るならいいか。
椅子に座ると、手元には朝食、目の前には時雨が座っている。そういえば、朝食を誰かと一緒に食べるのは久しぶりだな…
「林檎は私が切ったんだぞ」
妙に嬉しそうに時雨が言う。他の料理は紗奈が作ったんだがな、と付け加えた。焼くかコップに入れるかの作業しかないけどな。
「林檎を剥くときに、五回程指まで切ってしまった」
左手をぶらぶら振って見せる。
「大丈夫なのか?」
「まあ、痛みは感じないし、血も出ないし、半端な傷はつかないし」
「切り落とす勢いで切ってましたね」
非日常的な会話。
もし切り落としてしまったらどうなるのだろうか。くっつくのかな。不馴れなだけか容赦がないのか。
「今回は林檎だけで精一杯だったが…次こそは…」
クールな顔して、声には意気込みを感じられる。どうやら前者だったようだ。
それを遮るかのような真剣な顔で、紗奈が言葉を発した。
「あの、急いで食べないと間に合わないかも知れないです。いつも何時に家を出られるかは、分かりませんが」
時計を見る、と、いつも朝飯を食べ終わる時間よりも、二十分程遅れている。もしかしたらアラームはスヌーズで起きたのかも知れない。昨晩は疲れていたし。
「ああ、やばいな」
間に合わない可能性が。
「片付けはしておきますので、準備の方を」
「すまん、任せる」
急いで二階へ上がり、制服に着替え鞄を掴んで駆け降りる。霧咲と時雨が玄関先で待っていた。
「急ぎましょう」
一人、地を蹴り走り出した。




