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訪問

ようやく少しだけ場面が動きます。


明山寺。この氏守市では、ちょっと有名な旧家だ。室町時代、村雨流という剣術を生み出した開祖、外崎伽藍の一番弟子にして妻、明山寺茜を始祖とする、それなりの歴史と格式ある家柄だ。


中でも有名なのが村雨流12代目当主代理、明山寺鈴音。当時第二次世界大戦真っ只中、女性でありながらその身分と性別を偽り、戦争に従事したなんて逸話のある人物。歴代最強とまで言われていたらしいが、まあ私としてはどうでもいい。


結局戦中に行方が分からなくなり、そのまま死亡扱い。当主をすでに失っていた明山寺家では当主代理の彼女までいなくなったことで没落の一途をたどり、今は無駄に大きなお屋敷しか残っていない。それでも一族の人々は彼女を責めることはなく、むしろ賞賛さえしていた。


家の名誉のためではなく、彼女の誇りと名誉のために、国のために命を投げうった彼女こそ、武人としての矜持を重んじる明山寺家にとって誇らしいものだったらしい。私はそんな彼女のようになってほしいと、彼女の名前からとって、凛音を授かった。まあ、剣術とかの稽古はさせられたけど、どう生きるかはお前が考えろなんて親も祖父母も言っていたので、私は記者としての道を歩むことにした。


今でも剣術修行をさせられたりするが、それはあくまで私の心根を鍛えるものであり、自己防衛のためとかは二の次だ。


「ただいま……」


あの死神と出会った後、私は血の気が引いて気絶する直前だったが、楊さんが私を送ってくれて、無事帰路についた。重厚な木造の門をくぐると、祖父が門下生相手に稽古をつけていた。


「おお。凛音、帰ったか。稽古でもするか?」


我が祖父、明山寺六源(むげん)は、その祖母が明山寺鈴音の妹である明山寺楓。当時から厳しく育てられ、県下でも勝る者無しの剛の者へと成長。武者修行の末、祖母、明山寺桜(旧姓:細川)と出会い、家柄の良い祖母の家から駆け落ちした後結婚。


追手を放ってきた祖母の家を祖父の広い人脈で、武力と謀略でねじ伏せたなんていう波乱万丈な人生を送っている人だ。今は現役を引退し、好々爺然としてはいるが、いざ大事となれば豹変して一族をまとめあげる中心人物だ。


「どうした。顔色が悪いぞ」


「なんでもないよ……」


力なく答える私を不審に思う祖父。私は祖父の本質を見抜く慧眼を恐れて二階の私の部屋に逃げ込んだ。






「信じてくれるわけ無いよなぁ……」


今日起こった怪異に私は頭を抱えていた。手伝いは放課後、暇な時で構わないと言われた。まあ、不自然に行動すれば、足がつく可能性があるからそういった配慮は抜かりないのだろう。


しかし。私を言い知れぬ不安が襲う。


(仕事を手伝うだけ手伝わせて、最後には……)


魂を奪われる。きっとそうだろう。楊さんに聞いたが、あの事務所には彼女とあの死神以外職員が居ないらしい。協力者を得て打開するなんて思考は、初めから『捕らぬ狸の皮算用』というわけだ。


「どうしよう……」


まだ死にたくない。やりたいことはたくさんある。親に育ててもらった恩も返してないのに、親より先に死ぬ親不孝なんてしたくない。


「爺ちゃんならどうするかな……」


私の祖父ならどうするかと、考える。強くて憧れだった祖父。父は外資系の仕事で家に滅多に帰ってこず、母は既に死んでいる。父は私に愛情を注いでくれてはいるが、寂しがりだった私のそばには、仕事のせいで一緒に居られなかった。


そんな私の面倒を見てくれたのが祖父。軟弱者と言われ、鍛えてやると修業の日々。辛かったが楽しかった。いろんな所にも連れてってくれたし、よく頭を撫でてくれた。私はそんな祖父の武骨な手が大好きだった。


「悩んでも仕方ない、か」


何か悩みがあるたび、祖父は私に言ってくれた。


『好きにやれ。お前が選んだ道なら後悔のないように行動しろ』


「そうだよね、爺ちゃん」


私は顔をピシャリと叩き、気を引き締める。久しぶりに稽古に混ざろう。弛んだ精神を鍛えなおさないと!






仕事が終わったので、来ちゃいました。山の上にある道場。『村雨流』と書かれた大きな木製看板が掲げられた門をくぐり、稽古中の門下生の人達に軽く会釈する。


「いやー、相変わらずいい所だなここ」


小さく呟く私。なんというか、気が引き締まる感じだよね。ちなみに私は素性がバレないよう、いつも狐の面を被ってます。初めて来た当時は、不審者扱いされましたけど、鍛えたいなら誰だろうと歓迎すると言ったお爺さんに

感激しつつ、1年近く通わせてもらってます。赴任してからすぐにだったから、それぐらいで合ってるはず。


「どうも六源さん、また鍛えて頂きに来ました」


「おお、千花殿か。久しぶりじゃのう」


今では道場師範の六源さんと結構仲良くなってます。名前も一応偽名です。不知火千花、結構気に入ってます。


「そうかそうか、お主は儂の弟子の中では一番強いからな、門下生たちもいい修行になる」


「いえいえ、六源さんに比べればまだまだです」


「謙遜しなさんな、お主の強さは儂が保証する」


いやいや、修行初めて1年もしないで六源さんのお弟子さんより強いなんて言われたけど、多分お世辞でしょうね。そんな簡単に強くはなれないですって。


「爺ちゃーん! 私も稽古つけて!」


「おや、孫の声じゃな」


「お孫さんですか?」


「自慢の孫じゃ。何やら今日は悩み事があったみたいなんじゃが、吹っ切れたみたいじゃな」


「そうですか」


悩みのある人が減ることはいいことです。私の負担も減りますし、何より悪霊化する可能性が減る。……こんな考えが出てくる時点で、何とも嫌な仕事ですねぇ……。


「どうやら孫も稽古をつけて欲しいらしい。あ奴もこの道場では敵なしの強さじゃ」


「ほほう、一度手合わせしてみたいものですね」


私死神ですから、普通の人よりは強くて当たり前なんですよね。まあ、六源さん相手だと手も足も出ませんが。


「よし。じゃあお主と孫とで模範試合でもしてもらおうかの」


「ええ、かまいません。望むところです」


ふふ、ちょっとワクワクしてきましたよ。






千花殿と出会ったのは一年前、仮面をつけた変質者がいると門下生から聞いた時じゃったな。最初は怪しい輩かと思ったが、嫌な気は感じなかった。どうやら純粋に鍛えてもらいたかったらしく、そういう熱意ある若者は嫌いではない。


早速稽古をつけはじめたんじゃが、1ヶ月ほどで門下生相手でも互角に戦えるようになりおった。


3ヶ月で門下生たちより強くなった。


半年で師範代と張り合えそうなほどの強さとなった。今の実力は儂の孫と互角ぐらいじゃろうな。通う頻度は低いが、熱心に修行に取り組んでおるところを見ると、若いころの儂を思い出すようじゃった。


どうにも血が高ぶって、以前一度だけ彼と手合わせしたんじゃが……。なんと儂に一撃入れおった。弟子たちですら儂相手では一撃すら入れられなかったというに。それにしても情けないバカ弟子どもじゃわい……。


以来、儂は彼が来るのを楽しみにするようになった。彼がどんどんと強くなって、儂と互角に戦えるようになってくれれば、儂も悔いなく戦い、そして道場師範を引退できる。その後は彼に頼むか、断られれば弟子の誰かにしようと思う。未だ未熟とはいえ、今の倍以上の鍛錬を積ませれば十分様にはなるじゃろ。


そして今日、千花殿が久々に顔を出し、孫も久々に稽古をつけてほしいと言っておる。今まで出会うことのなかった二人じゃが、恐らく実力は伯仲しておるはず。お互いいい研鑽となるはずじゃ。良き勝負となればよいのう。

次回は試合本編。

戦闘描写とか苦手なので

あまり期待はしないでね。

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