意図せぬ幸運
前回のゼノン視点です。
困りましたね。ここに来る人は何らかの悩みを抱えているからこそ引き寄せられるものなのですが。こんな危険な場所に積極的にやってくる酔狂な方がいらっしゃったとは。楊さんの報告からすれば、一応の忠告はしておくと言っていましたが、どうにも無駄に終わりそうですねぇ。だってここの地下への扉を開くための仕掛けが作動してる音が上からしますもん。
さて、どうしたものか・・・。
「いらっしゃい」
私はとりあえず目の前の人物に挨拶をする。まずは遠まわしに帰って欲しいような言い方をするか。
「おや。どうやら招かれざる客のようだ」
うん。我ながら嫌悪感むき出しです。他人に刺のある言い方をするのはちょっと気分が悪いですが。
「あなたは・・・」
「何か?」
笑顔で答えますが、腹の中は帰って欲しいという願いでいっぱいです。露骨に嫌なやつですね。んん? 怯んではいるみたいですが、一押したりなかった?
「あなたはなぜこんなところに……?」
「ここで相談室をしているのですよ」
こんだけ帰って欲しいオーラ出してるのにこのお嬢さん、中々気丈な方ですね。好感が持てます。ですが。
「あなたには悩み事がない。ならば私のお客様ではありませんね」
お客様ではないのですから、相手をしてあげる義理はございません。
「……いえ、ありますよ悩みなら」
まだ食い下がりますか!? 私の威圧感そんなに無いんでしょうか? 人外の者としてはちょっと泣けてきますね。同族に聞かれたら確実にバカにされますねこれ。仕方ない。優しく諭す方でいってみましょう。もうちょっと優しい感じで……。
「……私は嘘が嫌いです。嘘つきは閻魔様に舌を抜かれますから」
上司の名前を出すのはどうかと思いますが、私なりの優しさを織り込んだつもりです。舌抜かれてる罪人見たことあるんですけど、あれは本当に痛そうでしたし。あれ? なんか怖がってる? まあそうですよね、閻魔様怖いですもん。
「あなたはなぜこんな所で相談を受けているのですか?」
えええ!? 声震えてるけど質問まだしてきましたよ!? どれだけ気丈なんですかあなた! ううむ、これは少しぐらいは質問に答えてあげてもいいかな? でも仕事場がここなのは雰囲気出すためと、単純に予算がないからってのは言いづらいなぁ……。
よし。はぐらかそう。
「なんででしょうね?」
苦笑が漏れました。声には出してないけど今確実に私、苦笑いしてますね。これだけやっても逃げ出そうとすらしない。彼女の精神力は底なしですか? 仕方ない、ここは勝負事で白黒はっきりさせてさっさとお帰り願いましょう。
「御嬢さん。どうせ私を興味半分で見に来たのでしょう?」
私、見世物にされるの嫌いですし。これぐらい言ってもいいですよね?
「私は人付き合いが苦手でね、あまり見世物みたいにされるのは好きじゃない」
前の職場ではまともな会話すら出来なかったなー。あ、なんか泣きたくなってきた。
き、気を取り直して。
「ですがまあ、ここに普通の方が来られるのは久しぶりですし、私とゲームでも致しませんか?」
「ゲーム……?」
「何、簡単なトランプゲームです。最近はまっていまして」
これは本当です。最近ようやくまともな友人といえる楊さんと暇潰しによくやっているんですが。楊さん滅茶苦茶強いんですよねー。
「勝てば質問に答えましょう。ですが負ければ、私の仕事の手伝いをしてもらいます」
一応、仕事を手伝わせるなんて嘘もついておきます。だれだって面倒事を押し付けられるのは嫌ですしね。これで帰ってくれればいいんですが……。
「ええ、受けて立ちます」
ですよねー。
別室に移り、ゲームの準備をします。今回は比較的楊さんと互角に勝負できるポーカーで行ってみましょう。掛け金の設定はいつも通りでいいでしょうかね?
「カードは私が切らせていただきます。ズルがあっても困りますし」
「ははは、手厳しいですね」
信用はされていないですから、これぐらいは当然でしょう。
……んん?なんかシャッフルの仕方がおかしい? 配り方も上から2番目を私によこしている?
あ、これイカサマされてますね。どうしましょうか。あ、そうだ! とりあえず参加料を払って、と。
「では手札交換と行きましょう。どちらが先にやるかはこれで」
フフフ。恐らく彼女はじゃんけんに自信があって、先手を取って札を揃えようとするはず。実際楊さんが連れてきた彼とやったときも、同様の手口を使ってましたし。
ですがサイコロならば何とかなるはず! さあ、運命の女神様、私に微笑んでー!
1でした。
彼女は6。運良すぎですよ……。うーん、いつも以上に運が無いなぁ。まあいいか、とりあえず手札を確認しながら考えましょうか。
……あれ?この手札。いやいやまさか。そんなわけないでしょう。出たら死ぬって言われてるぐらいですよ? いやあれは麻雀のやつか。それは置いといて。
何ですかこの手札。ポーカー最上位の手札に大手かかってるってなんですかこの状況。……狙ってみましょう。どうせ彼女はイカサマでいい手札が来てるはずですし。賭けてみるのもいいですよね?
さて、どうなるか。
……引いちゃいましたよ、スペードのA。ロイヤルでストレートなフラッシュですよ。ううむ、普段無い運が土壇場で押し寄せてきたんでしょうか? 何とも因果ですね。とりあえず、彼女が自信満々で8枚レイズしてきたので、私も乗っちゃいますか。絶対に負けませんしねこれ。
まずは彼女が手札を公開。4カード……エグすぎでしょうあなた。そして私の手札公開。ふふん、たまにはいいでしょう。
「すみませんね。この勝負、私の勝ちです」
勝利宣言。一度やってみたかったんですよねー。
で、相手の反応は。
「なんなのこれ……」
まあ、そう思いますよね。とりあえず勝てたことですし、軽くお説教した後に帰ってもらいましょうか。
この小説は一応勘違い系がコンセプトだったりしますが、どうだったでしょうか?