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駆け引き

主人公は一応彼のほうです。

彼女のほうは……どうなるんだろ?

話しかけられた瞬間、私をかつてないほどの悪寒が襲った。何といえばいいだろうか、居心地が悪い? まるで全てを拒絶されているかのような、そんな感じ。何かの違和感が私の心を埋め尽くしていくような感覚。気持ち悪くてめまいがしそうな空気だった。


だがここでめげてしまっては未来の記者失格。私は目の前の人物に話しかけるところから試みてみた。


「あなたは……」


「何か?」


「っ!」


問いに答えるその声は、一見普通でありながら、その実対面している者にとっては恐怖だった。あまりにも平坦すぎる。あまりにも普通すぎるのだ。それが逆に私の恐怖を増幅させる。だが挫けない。たとえ目の前の相手が化け物であっても、私は取材を続けてみせる。そう決意して、再び質問を投げかけた。


「あなたはなぜこんなところに……?」


何とか言葉を紡ぐ。出だしは何とか成功といったところ。あとは自然と会話を増やしていけば何か引き出せるはず……!


「ここで相談室をしているのですよ」


言葉が出なかった。普通に会話している。だがなんだこの違和感は。これが会話と言えるのか?


否、これは。


(言葉による圧力……!)


私はそう感じた。それしか思い浮かばなかった。言葉の節々からにじみ出る、拒絶の空気。それをひしひしと感じる。


「あなたは悩み事がない。ならば私のお客様ではありませんね」


「……いえ、ありますよ悩みなら」


相手は早々に私に帰ってほしいという感じだ。だがそうは問屋が卸さない。ここまで来て退けるものですか!


「……私は嘘が嫌いです。嘘つきは閻魔様に舌を抜かれますから」


ゾワッと。全身の毛が逆立った。平然と、淡々と。彼はそう言葉を紡いだ。遠まわしに脅されているのだ。これ以上余計な詮索をすれば舌を抜く以上の地獄を見せてやると。


だが退けない、退きたくない。


「あなたはなぜこんな所で相談を受けているのですか?」


声が震える。私自身ここまでよく精神が持つものだと内心感心していた。仮面の人物は少し思案したようなそぶりをした後。


「なんででしょうね?」


ニタリと笑ったような気がした。駄目だ、これは歯が立たない。私がいいように掌で踊らされているようなものだ。仮面の人物は椅子から腰を上げると、重厚な作りの机の前に回り、私の目の前に立つ。身長は思ったよりも大きく、180cm位はある。それがなおさら威圧感を高める材料となる。


逃げ出したい。だがこの状況、逃げ出すことさえできない。


「御嬢さん。どうせ私を興味半分で見に来たのでしょう?」


仮面の人物がそういう。内心何かの苛立ちを含んでいるかのようだった。


「私は人付き合いが苦手でね、あまり見世物みたいにされるのは好きじゃない」


次いで口をついて出てきた言葉。それは私に対しての糾弾であり、はっきりとした私に対する敵意。私は足がすくみかけていた。


「ですがまあ、ここに普通の方が来られるのは久しぶりですし、私とゲームでも致しませんか?」


「ゲーム……?」


「何、簡単なトランプゲームです。最近はまっていまして」


どうやら相手は私と勝負事がしたいらしい。それもトランプ。おそらくこの人物は相当危険な人物のようだ。トランプにはまっている。そして私と勝負がしたい。つまりこれらから導き出される結論は、


(地下での違法賭博……)


もしそれの情報が引き出せたら大スクープ間違いなし。だが、負ければ恐らくは。


「勝てば質問に答えましょう。ですが負ければ、私の仕事の手伝いをしてもらいます」


地下の強制労働にでも放り込むつもりなのだろう。換えの駒を補充する、その程度の意味しかない。今わかった。今までこの相談者に相談しに来た人たちが悩みを解決できた理由。彼との勝負ごとに勝ち、莫大な資金等の援助によって解決できたのだと。


これが真相だったのだ。ならば。


「ええ、受けて立ちます」


何としても勝負に勝ってみせる。そしてこの人物が何者かを暴いて見せる!






「勝負は、ポーカーでどうでしょう?」


「ええ、かまいませんよ。ルールは知っていますし。ジョーカーは無しでお願いします」


別室の応接室らしき場所に連れてこられた私は、来客用のソファに座し、テーブルを挟んで仮面の人物と対峙している。


「ええ、分かりました。互いに掛け金代わりのコインが10枚。勝負に乗るには参加料1枚。降りる時はなしで構いません」


「追加のコイン上限は?」


「なしです。その方が面白いですし。コインがなくなれば敗北です」


心なしか笑っているような気がする。いや笑っているのだろう。こんな勝負に乗せるということは相当な自信があるということ。彼はそれなりの強さがあるのだろう。だが。


(あいにく私はポーカーなんて部内でしょっちゅうやってます!)


イカサマありのサバイバルバトルだって経験している。おかげで最初は部長に搾り取られまくったが。今では私自身、イカサマをばれることなく実行できる。


「カードは私が切らせていただきます。ズルがあっても困りますし」


「ははは、手厳しいですね」


カードをシャッフルする。もちろん、仕込みは忘れない。カードをシャッフルした後、交互に1枚ずつ配る。5枚配り終えた後、私はソファに座る。そして手札を見る。


(……よし、完璧です)


手札はすでに8の3カード。交互に配っているように見せて、山札の上から2番目を相手に配るなどしたおかげだ。山札のほうも抜かりはない。上1枚は8。たとえ相手が先に手札交換しても、下のほうはカードが2枚や3枚といった形になっており、最低でもフルハウスはいける。自分の手癖の悪さに、内心ほくそ笑んだ。さて、どう出てくるか。


「ではまずお互いに参加料コイン1枚です」


そう言うと髑髏の意匠があしらわれたコインを山札のわきに置く。私も参加料を支払う。


「私はコイン1枚をまずかけましょう」


「私も同じく1枚です」


「では手札交換と行きましょう。どちらが先にやるかはこれで」


そう言って懐からサイコロを出す。


「大きい目の出たほうが先です」


やられた。手札交換の順番をじゃんけんで決めていた部内で経験していた私は、サイコロが出てくることを失念していた。


(恐らく、というより間違いなくイカサマサイコロですよね・・・)


恐らく振り方によって確実に出る目が決まるタイプ。イカサマは先手のほうがやりやすい。後手になると自分の手札を確認した相手がこちらを凝視する

可能性が高いのだ。恐らく彼は手元にカードを忍ばせているはず。仕方ない。先攻はとられても問題はない。どうせフルハウス以上は早々出はしない。


「おや、1ですか。どうにも運がない」


1!?なんでこの状況でわざわざ・・・。いやもしかしたら、あのサイコロは普通のサイコロなのだろうか。私は急な来客。相手は来客をあらかじめ知っているような風だった。恐らく相手に事前に別の人物を通して連絡を取っていたのだろう。そして万全の状態で勝負に挑んでいた。


しかし今回は想定外の来客。イカサマをしようにも準備は不十分。イカサマ用のサイコロは普通のサイコロと見分けがつかないようになっていたのだろう。それで土壇場でそれを取り違えてしまった。それならば納得がいく。


「さ、あなたの番ですよ」


サイコロを手渡され、それを振る。出た目は……。


「6ですか。御嬢さん、あなたは運がよろしい方のようで」


若干だが声に苦いものが感じられた。さすがに想定外だったのかもしれない。こんな事態になることは。私は黙って手札を二枚切り、手札を補充する。


これで4カード。そうそう負けはしない。


続いて相手の番、相手はカードを一枚だけ切り、1枚引く。どうにも微妙な顔をしている。イカサマをした様子は見えなかったが、絶対にしているはず。だが恐らく露骨に強い手札は作っていないはずだ。イカサマをしているとばらしているようなものだし。せいぜいがフルハウス。4カードの私には勝てない。


だから私は勝負に出た。


「私はさらに8枚のコインを賭けます!」


自信満々にそういった。これなら相手は降りるしかない。よほど自信のある手札なのだと相手によくわからせ、相手の掛け金を少しずつ奪っていける。乗ってくれれば一気に勝負が決まる。さあ、どう出てくる。


「私も8枚賭けましょう」


乗ってきた?相手も手札に自信があるのか?いやでもこれ以上の手札となればストレートフラッシュか、その上である最上級の手札ぐらいだ。たぶん相手は私が虚勢を張っていると考えているのだろう。考えなしの女子高生が、無い知恵絞りだして出した結論だと。だとすれば甘い。私は購買のおごりを賭けて真剣勝負をしてきた。


今の私に抜かりはない。


「受けましょう」


「では手札を公開しましょうか」


まずは私。手札は4カード。対して相手は。


「すみませんね。この勝負、私の勝ちです」


札の内容はスペードの10,J(ジャック),Q(クイーン),K(キング)


そして……。


「なんなのこれ・・・」


スペードのA(エース)。導き出される手札は。


「ロイヤルストレートフラッシュだなんて・・・!」


私は、負けてはならない勝負に負けてしまった。

シリアスって書きづらい……。


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