携帯電話と友人達と主(A)
【人物紹介】
・主:恵
女子高生。
・携帯電話:W
携帯電話本体。
・SD:S
携帯電話のSD。
・充電器:P
携帯電話の充電器。
・カメラ:A
携帯電話のカメラ。
・充電器置き:H(未梛)
充電する時に使う充電器置き。
・データ:D(夏林)
画像やら音楽などの様々なデータ。
・友人:くまちゃん
主の友人の一人。黒髪パッツン。
・w63ca
くまちゃんの携帯電話。男女二人で一体。二人は自由に通信できる。男女とも全身真っ黒。目は金色。
・男
w63caの半分。メール機能。女の方にちょっかいを出すのが日課。その際、後ろ髪を引っ張られるが動じない。
・女
w63caの半分。カメラ機能。高度のスルースキルをもつ。男にちょっかいをかけられても、通信が着ても無視する。基本無表情。くまちゃんを『マスター』と呼び、くまちゃんに忠実。
・SD
くまちゃんの持つSD。髪は銀、リボンは赤色。ブラウスは白、スカートは薄茶色でニーソは黒色。瞳は青色。プライドが高く、自分のデータ容量に絶対の自信を持つ。その分失敗した時の凹みようは半端ない。ツンデレ。w63caに対して絡みづらいと思っている。
※補足
・あくまで上の服装は外出用。部屋では基本(美梛以外)、無地の服。
・夏林はほとんど出回ってるので家にいない。
・この話はフィクションです。
以上を踏まえた暇な方はどうぞ。
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今日は主と、主の友人のくまちゃんって人と、その人の携帯電話達と一緒に公園に来ている。
何故こんなクソ寒い時期に公園に来ているのかって?それは主が場所が決まらず悩んでいたら、ふと浮かんだ場所が公園だっただけだよ。ああ寒い。
『わー凄い。こんな死ぬほど寒いのに元気に走り回るとか、男は元気だねぇ。ワール君では想像出来ないや。』
「死ねるなら死ねば良いよ。てか、SD家に置いてきた。」
『私も寝てたから置いてきた。』
「同じく。」
『ハハハ。』
「アハハ。」
公園のベンチでw63caを眺めながら二人は乾いた笑い声をあげた。ワールは主のポケットに入ってるカイロを片手で感じながら、肌が冷気に触れないよう身体を縮こませる。そして反対の手で読書をする。右側の主二人はたわいもない会話を続ける。
こんにちは。[携帯電話とSDと主]を読んだ人はどうも。今回もワール視点でしょうもない日常を綴っていくから、眠くなったら気にせずログアウトして寝てね。
今回は活動報告でも書いた友人[くまちゃん]が登場。小中高一緒っていうね。勿論くまちゃんは主の愛称だよ。実名だったら親の頭を疑うね。くまちゃんって人は主を『恵さん』って読んでる。昔からこの呼び方だから、お互いこのまま定着してるらしい。
馴れ初め話はこんなんで良い?主が適当に紹介しといてって言うから適当に済ませたけど。
『良いんじゃね。そこまで深く書く必要性ないし。』
「本当は登場させなくて良かったけどね。コノヤロww」
『もう手遅れだザマァww』
「クッソウ!!w」
くまちゃんが笑顔で主を小突くと主も楽しそうに小突き返す。すると二人して笑って、会話が始まる。ワールは黙々と読書に励んでいると、雀が数羽足元に近寄ってきた。飯が欲しいのか首を傾げたり、チュンチュン鳴いたり、チョコチョコ跳びはねたりと愛嬌を振る舞うが、生憎ワールは食べ物を持ち歩かないので無視するしかない。しかし雀も生き残るのに必死なようで、見た目に反してしつこくワールの周りに居座る。うっとうしいので帽子を深く被る。
そのまま黙読していると、前の方から騒がしい声がだんだん近づいて来る。男のデカイ声に時折ピッという電波の音が混じる。w63caはお互い自由に通常ができ、ピッという音はそのやり取りに起きる音だ。男から通信が着ても殆ど女は無視をしている。
二つの足音に何となく嫌な予感がしたワールは本を閉じて本来の姿に戻ろうとしたが、一足遅かった。
ザッザッザッザッ、ガシッ!
「なあなあなあ!ワールも一緒に遊ぼうぜ!行くぞ!」
「離せ。ワールは動きたくない。」
「マスター。写真を撮ってもよろしいですか。」
グイッ!
「いでででで!!」
「うん、いいよー。」
腕を掴まれ引っ張り上げられ抵抗していると、隣でくまちゃんに話し掛ける女が男の後ろ髪を引っ張った。痛みに男の力が緩められ、その隙にワールは脱出する。そして携帯電話に戻り、主の掌に乗った。主は『よしよし』と頭を撫で下ろす。
女はまだ髪を引っ張っており、男は涙目になっている。が、動じていないのは、色々な事に慣れているからなのかもしれない。痛みとか、苦痛とか、痛みとか、痛みとか、痛みとか。男は毛根から禿げればいい。いや、禿げろ。
写真を撮る事の許可を得た女に男はちょっかいをかけるが、高度のスルースキルで無視。その代わりに後ろ髪を引っ張られたが、男は気にしていない。愉快そうに笑って女に絡むが、女は無表情で更に髪を引っ張る。見ていると本当に禿げそうだ。ワールの願望は近いうち叶うかもしれない。
『ワール君、何恐い事考えてるの。』
「別に。」
「何の事?」
『ワール君が男の髪が禿げそうだとか考えてる。私もそう思ってるけどw』
「オマwまあ、そういう私も予感はしているwww」
『おいマスターww』
「仕方ないじゃん。」
『仕方ないのか。』
「もう過去には引き返せない。」
『残念だなw』
「残念だw」
ケラケラと人事を楽しむ二人。人の姿に戻り、想像して、フッと鼻で笑う。人(他機)の不幸は蜜の味。うん、楽しい。
タタタタッ!!
そこから三人(二人と一体)で会話をしていると、走る音が聞こえる。二人は気づいていないようで、音のする方へ顔を向ける。主も気づいたようで、くまちゃんの肩を軽く叩いて公園の入口に注意を向ける。空を撮る女の隣に立つ男も気づいているようで、顔だけ向けていた。
女以外全員が注目する場所に、人気が少ない公園に、息を切らした子供が登場する。それはくまちゃんのSDで、若干涙目になっているのは気のせいではないだろう。SDは真っ直ぐくまちゃんの所に走って来ると、キッと睨みつけた。そして息も整えずに真っ赤な顔で怒鳴り付ける。
「何で待っててくれないのよ!起きたら誰もいなくてビックリしちゃったじゃない!!馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!!寂しくなんかないわよ!焦ってなんてないんだから!!」
「だってぐっすり眠ってたし、待ち合わせ時間目前まで待ったけど起きなかったから。よく場所わかったね。」
「お母さんが教えてくれたわよ!もう、最悪!髪の毛ボサボサだし!!」
「それは私のせいじゃない。」
ぷんぷん怒りながら手櫛で髪を整えるSD。手で梳く度に頭の上につけている赤色のリボンが揺れた。ヘラヘラと謝るくまちゃんの隣で主はワールの本を覗き見ている。ワールは気にせず黙読。SDは言い足りないのかまだくどくど文句を口にしている。
そんなSDの背後に黒い影が。SDは気づかずに減らず口を開けている。トントン、とSDの肩を誰かが叩いた。中断され不機嫌そうに振り返ると、一変して顔を引き攣らせた。
「コレ、カメラのデータ。」
「え?あ、はい。」
手渡されたデータに一瞬戸惑いながらも受け取るSD。前にボソッと『あの二人絡みづらいのよね』と零していた。その二人は気にした風もなく普通に話し掛けている。SDは一歩間を置いているのが彼女なりの抵抗だろう。
ふと、隣の主が呟いた。
『私達は、今は平穏だ。けれど、次はこの場所が地震にあう。覚悟はしておこう。』
真っ直ぐ空を見上げ、主はキュッと己の掌を握る。
今回の東北の太平洋大地震の事を言っているのだ。テレビに映る沢山の死者の数。亡き人に悲しむ家族。画面に映る現実。主は顔を歪ませ、静かに顔を反らした。
その日の夜、東北地方に知り合いがいない筈なのに、この人は風呂場で涙を流した。そっと、少しだけ。そして気を紛らわすように頭からお湯を被り、鏡に向かって笑顔を浮かべる。強がりだと、直ぐにわかった。
ワールには涙の理由がわからない。本を沢山読んでも、人の気持ちはわからない事が多い。ワールの体の中よりも複雑だ。機械だから、理解出来ないのかもしれない。
…けれど、何があっても恵の傍にいようと思った。泣き虫な嘘つきの近くに。
主の返事の代わりに、無言で主のポケットに手を突っ込んだ。ワールの冷たい手と主のちょっとだけ温かい手が触れ合う。それに驚いた主がワールの方を見るので、主の方は見ずに間を詰める。肩と肩が触れ合う至近距離。今日は寒いから、少しでも温もりが欲しいんだ。
「何か言った?」
『…んーん、何にも。ワール君冷たいねぇ。私の方が冷えそうだよ。』
「織田さん、さっき何か言ったー?」
『くまちゃんの空耳だよ!ねー?』
「さあ。」
『ワール君酷っ!』
「何だ、織田さんの独り言か。ご愁傷様。」
『ちょっとそれどういう意味!?ちょ、くまちゃん!!』
やれやれといった風にw63caとSDの背中を押して歩くくまちゃん。主も口だけ反抗するがその場から動こうとしない。時間はもう18時を回っていた。ワールが主を肩で呼ぶ。
「帰ろ。」
『もうそんな時間か。通りで人が少ないわけで。』
「織田さーん。私先に帰るよー。」
『バイバーイ!』
「じゃーねー!」
w63caとSDは元の姿に戻り、くまちゃんは自転車に乗って家路を走る。だんだん小さくなる背中から視線を移し、ワールを見る。
『行こっか。』
「待ちくたびれた。」
『ハハッ。そんなに経ってないよ。』
小さく笑う主。勿論冗談だ。
主は自転車を押して、ワールはその隣を歩く。主は始終楽しそうに鼻歌を歌っていた。音痴だけど。
【携帯電話と友人達と主(A) 完】
友人のくまちゃん+α登場。リアルの友人にはちゃんと許可得てます。ありがとう!!
話は変わって、今回の大地震は酷かったです。愛知県の中央に住む私は被害は少ないですが、東北地方は悲惨すぎる。恵と同じく風呂場でそっと涙を流しました。その後も同じ。理由は私にもわかりません。涙腺が緩いのかな?(笑)
東北地方の方々にご冥福をお祈り申し上げます。一人でも生き延びて下さい。お願いします。
ありがとうございました。