第7話 公開実証 ― そして釣り針は外れない
発表当日。
訓練場は、妙に人が多かった。
兵士、文官、見物に来た貴族。噂はよく回っている。
「失敗すれば即終了らしいぞ」
「異世界の男だろ? 口だけじゃないのか」
ざわめきの中心に、白石快人は立っていた。いつもの飄々とした笑み。
だが、始まった瞬間――空気が変わる。
声が低く、通る。
「まず、今の騎士団は強いです」
いきなり肯定。
「ただし、無駄に疲れている」
兵士たちが顔を上げる。
「剣が鈍るのは弱いからじゃない。同じことを三度やっているからです」
彼は地面に棒で線を引いた。
「ここからここまでが、一日の動き。本来は一本道でいい。なのに、今は遠回りしている」
数字は使わない。専門用語もない。だが誰にでも分かる。
「食料の運搬、武具の点検、訓練の順番。順序を変えるだけで、疲労は三割減ります」
三割、という言葉だけが静かに落ちる。
「強くなる方法は簡単です。余計なことをやめる」
場が、静まり返る。フィリアは息を呑んだ。
昨日までの軽薄な男とは別人だった。淡々と、淀みなく、迷いなく。
そして。
「では、実証に移ります」
兵士たちが動き出す。三日目にフィリアへ頼んだ配置変更。
運搬経路の一部をわざと変えた。監視も、さりげなく増やした。
――その瞬間。
荷車の車輪が外れる。木箱が崩れ、訓練場が騒然となる。
「何をしている!!」
フィリアが激昂する。蒼眼が赤みを帯びる。
だが快人は、静かだった。崩れた木箱の中身を見る。
本来入っていないはずの別の指示書。
にやり、と笑う。
「釣れましたね」
視線が一斉に宰相へ向く。
「な、何のことだ!」
当然の反論。だが快人は淡々と続ける。
「三日前、私は三種類の改善案をばら撒きました。
A案は兵站部長へ。
B案は副官へ。
C案は、あなたへ」
ざわめき。
「今日事故が起きたのは、C案だけが知っている場所です」
沈黙。
「これはベリヤの罠。情報を分けて渡し、どこから漏れるかで犯人を特定する方法です」
異世界の誰にもその名は分からない。だが理屈は分かる。宰相の顔色が変わる。
「偶然だ!」
「では、なぜ私の未完成案を先に潰そうとしたのです?」
さらに沈黙。逃げ場はない。
フィリアが前へ出る。蒼い瞳が、鋼のように冷たい。
「……宰相」
一瞬、迷いがよぎる。だが消す。
「国家への背信。職を解き、国外追放とする」
場が凍る。宰相は崩れ落ちた。連行される足音。
静寂。
フィリアは、ゆっくりと快人を見る。
「……信じられん」
「よく言われます」
軽い。またいつもの顔に戻っている。
「だが」
フィリアは続ける。
「お前は、使える」
それは彼女にとって最大級の評価だった。快人は肩をすくめる。
「序の口です」
「何?」
「宰相一人で、この国の歪みは説明できない。流れが詰まっている場所が、まだある」
地面に引いた一本の線を、さらに奥へ伸ばす。
「ここが本丸です」
フィリアは息を呑む。城は、まだ健全ではない。
改革は始まったばかり。そして快人は、にこりと笑った。
「次は、もう少し平和にいきましょうか」
――なお。
この数時間後。快人が兵士食堂の在庫を合理化した結果、
甘味が消滅し、騎士団全体から恨まれることになるのだが。
それはまた、別の話。
次話――七割、騒動。三割、国家改革。




