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武力ゼロと追放された俺、口八丁で最強国家を作ってしまう 〜元トップコンサル白石快斗の異世界再編計画〜  作者: InnocentBlue


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第11話 仮説の匂い


城の外は、相変わらず騒がしい。


市場の声。荷馬車の軋む音。鍛冶屋の鉄槌。

白石快人はその中を、相変わらず飄々と歩いていた。


「……まだ調べるのか」


隣でフィリアが呆れた声を出す。


「ええ」


即答。


「もう三日だぞ」

「はい」

「宰相の件でも城内をひっくり返すほど見て回っただろう」

「そうですね」

「それでもまだ足りないのか?」


快人は立ち止まった。そして市場の奥を眺める。

傭兵たちが酒を飲んでいる。体格のいい男が立ち上がり、こちらに歩いてきた。

肩がぶつかる。


「おい」


低い声。


「……」


快人は一瞬だけ固まる。その次の瞬間。

ひょい、とフィリアの背後に隠れた。


「団長代理ー」

「お前!」


フィリアが振り向く。傭兵は彼女を見て、顔色を変えた。


「……騎士団」

「何だ」


フィリアの声は冷たい。傭兵は舌打ちして離れていく。

快人はひょこっと顔を出した。


「いやー助かりました」

「お前……」


フィリアは呆れ果てる。


「さっきまで偉そうに国を語っていた男が、なぜ私の後ろに隠れる」

「戦闘力ゼロですから」


胸を張る。誇るところではない。

二人は再び歩き出す。市場を抜け、城へ戻る道。

フィリアはため息をついた。


「もう十分ではないのか」

「何がです?」

「情報だ」


彼女は指折り数える。


「城の構造。市場の流通。鍛冶屋の生産量。農地の収穫。交易路の状況」


ほとんど把握している。


「それでもまだ足りないのか?」


快人は少し笑った。


「足りませんね」


即答。


フィリアの眉が寄る。


「なぜだ」


快人は指を二本立てた。


「理由は二つ」

「聞こう」

「一つ」


指をくるくる回す。


「Mutually Exclusive」

「……?」

「Collectively Exhaustive」


沈黙。


フィリアの顔が、完全に止まった。


「……」

「……」


やがて彼女は言った。


「み?」

「はい」

「みーしー?」

「惜しい」


快人は笑った。


MECEミーシーです」


フィリアは腕を組む。


「何語だ」

「仕事語です」

「そんな言葉を使うな」

「分かりやすく言うと」


快人は地面に小石で円を描いた。


「問題を、ダブらず、漏れなく分ける」


円をいくつかに区切る。


「ここが軍事」

「ここが経済」

「ここが政治」

「ここが外部環境」


フィリアは覗き込む。


「なるほど」


「一つでも抜けると」


彼は円の外を指す。


「そこから崩れます」

「……」


フィリアは黙る。それは戦術に似ている。

包囲網。一箇所でも穴があれば、突破される。


「だから」


快人は続ける。


「まだ全部見切れてないんですよ」


フィリアは小さく息を吐いた。


「……徹底しているな」

「癖です」


少しだけ歩く。風が吹く。城壁の上で旗が揺れている。快人は空を見上げた。


「そして、もう一つ」

「何だ」

「仮説思考」


フィリアが首を傾げる。


「かせつ?」

「はい」


快人はにやりと笑った。


「仮説がない情報収集は、ただの散歩です」

「散歩ではないだろう」

「まあ似たようなものです」


彼は足を止めた。


「大事なのは」


指を立てる。


「先に答えを予想すること」


フィリアは眉をひそめる。


「予想?」

「ええ」


快人は静かに言った。


「この国の問題は、たぶんこれだ」


まだ確信はない。だが。匂いはする。

市場。

傭兵。

鍛冶屋。

騎士団。

全部を見て、一つだけ違和感があった。


(もし、俺の仮説が正しければ)


この国は。ただの弱小国家ではない。


もっと――厄介な構造を抱えている。


フィリアが聞く。


「その仮説とは何だ」


快人は少しだけ笑った。そして空を見上げる。

夕焼けが城壁を赤く染めていた。


「それはですね」


「この国――」


言いかけて、止まる。フィリアの眉がぴくりと動く。


「言え」


快人は振り返った。その目は、いつもの軽さではなかった。


「もし当たってたら」


静かに言う。


「この国、かなり面白いことになります」

「だから何だ」


フィリアが一歩近づく。


「仮説を言え」


快人は肩をすくめた。そして、にやりと笑う。


「長くなるので」


手をひらひら振る。


「次で説明します」

「待て!」


フィリアの怒声が城門に響く。だが快人は、もう歩き出していた。

彼の頭の中では一つの仮説が、ゆっくり形になり始めていた。


そしてそれは――


アストレア王国の未来を、根本から揺らす可能性を秘めていた。

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