第1話 追放テンプレ? いえいえ、改善余地ですね
人生で一番どうでもいい会議の最中に、俺――白石快斗は異世界へ飛ばされた。
「では本件のKPIですが――」
そこまで言った瞬間、視界が真っ白に弾けた。
次に目を開けたとき、俺は石畳の上に転がっていた。天井は高く、壁はやたらと装飾がゴテゴテしている。RPGで見たことのあるいかにも王城だ。
そして目の前には、王冠をかぶった壮年の男と、鎧姿の騎士団。
……なるほど。テンプレか。
「異界より召喚されし勇者よ!」
王が声を張り上げる。
勇者。はい来た。ここでチートスキルが配布される流れだな。
俺はゆっくり立ち上がり、スーツの皺を払った。
「御社――いえ、御国の課題整理から入りましょうか?」
ざわり、と玉座の間が揺れる。
「なにを言っておる」
「状況確認です。魔王がいて、戦争中。人的資源不足。だから異世界から戦力調達。合ってます?」
王の眉が跳ねる。図星らしい。
「ではステータスを測れ」
水晶が運ばれ、俺は手を置かされる。
光が走る。
そして表示された文字を見て、場の空気が凍った。
――戦闘適性:E
――魔力量:E
――固有スキル:なし
完璧だ。
騎士の一人が鼻で笑う。
「……無能か」
「おいおい、せめて伸びしろ枠って言いません?」
俺は肩をすくめた。
王は露骨に失望した顔をする。
「使えぬ。戦えぬ者に価値はない。非戦闘民は不要だ。城外へ追放せよ」
早い。判断が早い。
兵に両腕を掴まれ、俺はそのまま城門の外へ放り出された。
重い扉が閉まる。
◇
――さて。
俺は一人、荒野に立つ。
剣もない。魔法もない。チートもない。
普通なら、ここで絶望するのだろう。
だが俺は、ネクタイを緩めながら笑った。
「戦えないから不要? いやいや、それは評価軸が単一すぎるでしょ」
背後で、城壁の向こうから爆音が響いた。
振り返ると、黒煙が上がっている。どうやら魔物の群れに襲われているらしい。
早いな。タイミング最悪だ。
城門の上で慌てる騎士たちの姿が見える。
陣形が乱れている。弓兵が前に出すぎだ。補給が間に合っていない。
……三分だな。
俺は城壁を見上げ、大声で叫んだ。
「左翼、崩れますよ! あと百二十秒!」
「黙れ無能!」
怒号が飛ぶ。
だが。
次の瞬間、左翼の盾兵が押し切られ、城門前が崩れた。
悲鳴。
混乱。
俺はため息をついた。
「ほら言った」
城門が軋み、魔物がなだれ込もうとする。
このままでは街が落ちる。
俺は再び叫んだ。
「弓兵を三歩下げて高所集中! 重装は門の内側に引いて二重扉化! あと油ある? あるなら投資案件だ!」
「な、なぜ分かる!?」
上から叫び返す声。
「現状分析です。御社、いえ御国。防衛設計が甘い。今なら改善間に合いますよ!」
半信半疑ながらも、騎士たちは動いた。
指示通りに隊列が組み直される。
弓が一斉に放たれ、油に火が走る。
門前の魔物が炎に包まれ、勢いが止まった。
ざわめきが広がる。
城壁の上から、さきほど俺を見下していた騎士が、信じられないものを見る目でこちらを見ていた。
「……貴様、なに者だ」
俺は軽く一礼する。
「白石快斗。非戦闘民です。ただし――戦況改善のコンサルは得意分野でして」
門がゆっくりと開く。
さきほどの王とは別の人物――銀髪の女騎士が姿を現した。鋭い眼差し。だがその奥に、理性がある。
「あなたが指示を?」
「いえいえ、提案です。採用したのはそちらの判断。優秀ですね」
彼女の口元が、わずかに動いた。
「……追放されたのでは?」
「はい、即日解雇です。なので今はフリーランス。顧問契約、いかがです?」
騎士たちがざわめく。
女騎士はじっと俺を見つめた。
「あなたは戦えない」
「ええ。前線は任せます。その代わり、勝てる構造は俺が作る」
炎の向こうで、まだ魔物が唸っている。
俺は笑う。
「安心してください。この世界、伸びしろしかないんで」
こうして――
武力ゼロ、魔力ゼロ、固有スキルなし。
代わりに持っていたのは、口八丁と構造把握。
これは、追放された元トップコンサルが、最強国家を作るまでの、最初の改善提案である。




