表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の走行距離(マイレージ)、異世界でも積算中 ~追放された陰キャ長距離ドライバー、最強の"運び屋"として覚醒する~  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/20

第六章 帰り荷を探せ

運送ギルドの設立から一ヶ月が経った。


王室の認可を得たことで、誠一たちの立場は劇的に変わった。商人ギルドのマルクスは渋い顔をしていたが、王女の名の下に発行された認可状には逆らえなかった。


事務所も構えた。王都の商業地区に、小さいながらも専用の建物を借りた。一階が受付と倉庫、二階が事務室と会議室。看板には「カートライト運送ギルド」の名が掲げられている。


「順調ね」


リーネが帳簿を見ながら言った。


「依頼は増え続けてる。塩、鉄、小麦、薬草——あらゆる物資の輸送を請け負うようになった」


「問題は、俺一人しか走れないことだな」


誠一は椅子にもたれかかった。


「依頼は山ほどあるのに、処理しきれない。もっと人手がほしい」


「でも、あなたみたいなスキルを持ってる人は、そうそういないわ」


「分かってる。だから、別の方法を考えないといけない」


誠一は天井を見つめた。


「効率化だ。一回の運行で、できるだけ多くの荷物を運ぶ。そのためには——」


「帰り荷」


リーネが即答した。


「片道で運んで帰ってきたら、半分は空走りになる。往路と復路、両方で荷物を運べば、効率は倍になるわ」


「その通りだ」


誠一は身を起こした。


「問題は、帰り荷をどうやって確保するかだ。行き先の都市で、ちょうど王都に運びたい荷物がある保証はない」


「だから、営業が必要なの」


リーネは地図を広げた。


「各都市の商人と取引関係を築いて、定期的な輸送契約を結ぶ。そうすれば、いつでも帰り荷を確保できる」


「営業か……」


誠一は頭を掻いた。


「俺は、そういうの苦手なんだよな」


「知ってるわ」


リーネはニヤリと笑った。


「だから、私がやる。明日から、各都市を回って営業してくるわ」


「一人で? 危険じゃないか」


「あなたが送ってくれるでしょう? 目的地まで運んでもらって、商談してる間に次の都市に行って、また迎えに来てもらう。そうすれば、一日で複数の都市を回れる」


「なるほど……頭いいな、お前」


「商人の娘ですから」


リーネは胸を張った。


こうして、新しい営業スタイルが確立された。


リーネが商談を担当し、誠一が輸送を担当する。リーネを運ぶ間も、他の荷物を積むことで、無駄を最小限に抑える。


一週間後には、主要な三都市——カルム港、ドワーム、ミルフィア——との定期輸送契約が成立した。


「これで、帰り荷の心配はなくなったわ」


リーネは満足そうに言った。


「カルム港からは塩と魚介。ドワームからは鉄と鋼。ミルフィアからは小麦と野菜。王都からは織物と工芸品。完璧な循環よ」


「まるで、血液が体を巡るようだな」


誠一は地図を見つめた。


「物流は、経済の血液だ。止まれば、体は死ぬ」


「詩的な表現ね」


「親父の受け売りだ」


誠一は少し照れくさそうに笑った。


「でも、本当にそうだと思う。俺たちがやってることは、王国の体に血を巡らせることだ」


「素敵な仕事ね」


リーネは微笑んだ。


「私、この仕事が好きよ。父の夢を継げて、嬉しい」


「俺も……」


誠一は窓の外を見た。


「好きかもしれない。この仕事」


日本にいた頃は、仕事を好きだと思ったことなどなかった。ただ、生活のために走っていた。怒鳴られないために走っていた。


だが、今は違う。


誰かのために走っている。何かを届けるために走っている。それが、こんなにも充実感を与えてくれるとは、思わなかった。


「セイ」


リーネの声で、我に返った。


「何だ」


「次の依頼、面白いのが来てるわ」


リーネは一枚の紙を差し出した。


「ドワームの鍛冶ギルドから。特注品の輸送依頼よ」


「特注品?」


「新型の馬車を開発したらしいの。試作品を王都に運んでほしいって」


「馬車の開発?」


誠一は首を傾げた。


「ドワーフは、鍛冶は得意だろうけど、馬車も作れるのか?」


「普通の馬車じゃないみたい。何か、画期的な新技術を使ってるらしいわ」


「面白そうだな。引き受けよう」


「分かったわ。明日の朝、出発できる?」


「ああ、問題ない」


こうして、誠一は翌朝、ドワームへ向かった。


ドワームは、王都から東に馬車で五日の距離にある鉱山都市だった。


誠一のスキルを使えば、半日で到着できる。深い山々に囲まれた、灰色の街。空気中に鉄の匂いが漂い、あちこちで鍛冶の音が響いている。


「ここか……」


誠一は街の入り口で足を止めた。


街の様子は、王都とは大きく異なっていた。建物は石造りで、窓が小さい。道幅は狭く、坂道が多い。そして何より——。


「ドワーフが多いな」


住民の半数以上が、ドワーフだった。人間の半分ほどの背丈で、がっしりとした体格。髭を蓄えた者が多く、みな職人風の作業着を着ている。


「おう、あんたがカートライト運送ギルドの運び屋か?」


声をかけてきたのは、特に立派な髭を持つドワーフだった。


「ああ。日向——セイと言う」


「俺はゴルド。ゴルド・アイアンフォージ。鍛冶ギルドの親方だ。依頼を出したのは俺だ」


「よろしく」


二人は握手を交わした。ゴルドの手は、岩のように硬かった。


「さっそくだが、こっちに来い。見せたいものがある」


ゴルドは誠一を、街の奥へと案内した。


坂道を登り、大きな工房の前で止まった。扉を開けると、中には——。


「これは……」


誠一は目を見開いた。


馬車だった。だが、普通の馬車ではない。


四つの車輪。それぞれに、独立したサスペンションが付いている。車体は金属製で、流線型のデザイン。まるで、現代の自動車を思わせるフォルム。


「どうだ、驚いただろう」


ゴルドは誇らしげに言った。


「俺が三年かけて開発した、新型馬車だ。名付けて『鉄駆動アイアンランナー』号」


「すごいな……」


誠一は馬車の周りを歩いた。


「このサスペンション、どうやって作った?」


「ん? サス……何だって?」


「ああ、すまん。この……バネみたいな部分のことだ」


「ああ、これか。特殊な合金を使ってる。強度と弾力を両立させるのに、相当苦労したぞ」


「なるほど……」


誠一は車輪を見た。スポークの構造、ハブの設計、タイヤ(というか、木製の輪っか)の取り付け方。どれも、素人目にも工夫が凝らされているのが分かる。


「これ、強度はどのくらいだ?」


「普通の馬車の三倍は持つ。しかも、振動を吸収するから、荷物が傷みにくい」


「速度は?」


「馬の走りに耐えられる設計だ。普通の馬車より、二割から三割は速く走れるはずだ」


「すげえ……」


誠一は感嘆の声を上げた。


これがあれば、輸送効率は大幅に向上する。俺一人だけでなく、普通のドライバーでも、より安全に、より速く走れるようになる。


「ゴルド、これ、量産できるか?」


「できるさ。ただし、材料と時間がかかる」


「費用は」


「一台あたり、金貨五十枚ってところだな」


高い。普通の馬車の十倍だ。だが——。


「投資する価値はある」


誠一は決断した。


「十台発注したい。前金として、金貨百枚を置いていく。残りは、納品時に払う」


「おいおい、本気か? 金貨百枚なんて、大金だぞ」


「本気だ。この馬車があれば、ギルドの輸送能力は飛躍的に向上する。長期的に見れば、元は取れる」


ゴルドは目を丸くした。


「あんた……ただの運び屋じゃないな」


「何の話だ」


「商売のセンスがあるってことだ。普通の運び屋は、目の前の依頼をこなすことしか考えない。だが、あんたは先を見てる」


「まあ……色々あってな」


誠一は苦笑した。


日本で十八年間、物流業界にいた。現場だけでなく、業界全体の構造も、嫌というほど見てきた。その経験が、今、役に立っている。


「よし、分かった。あんたの心意気に免じて、金貨四十枚に値引きしてやる」


「いいのか?」


「ああ。俺も、この馬車が世に出るのを見たいからな。売れれば、宣伝にもなる」


「助かる。恩に着るぞ」


二人は再び握手を交わした。


「それと——」


ゴルドが言った。


「一つ提案がある」


「何だ」


「俺を、あんたのギルドに入れてくれないか」


「ギルドに?」


「ああ。運送ギルドには、技術部門が必要だろう。馬車の整備、改良、新技術の開発。俺がやる」


誠一は考えた。


確かに、専門の技術者がいれば、心強い。今後、ギルドが拡大していけば、車両の管理は大きな課題になる。


「条件は?」


「工房の維持費と、材料費を負担してくれ。あとは、面白い仕事をさせてくれればいい」


「面白い仕事?」


「俺は、ものを作るのが好きなんだ。退屈な仕事は嫌いだ。あんたのギルドなら、退屈しないと思ってな」


誠一は笑った。


「いいだろう。ようこそ、カートライト運送ギルドへ」


「よろしく頼むぜ、ボス」


こうして、ギルドに新しい仲間が加わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ