第十七章 四時間の死闘
王都に到着した時、誠一は限界に近かった。
「はあ……はあ……」
体中の筋肉が悲鳴を上げている。心臓が破裂しそうだ。
だが、休んでいる暇はない。
「荷物を……積み込む……」
倉庫に駆け込み、物資を次々と「収納」していく。
矢弾、食料、水、包帯、薬。二トン分の物資を、異次元空間に詰め込んだ。
「よし……行くか……」
誠一は、再び走り出した。
王都から北へ。ノルド砦を目指して。
街道には、敵の姿はなかった。黒崎の騎馬隊は、まだヴァンス村付近にいるはずだ。
「このまま……突破できれば……」
だが、甘くはなかった。
ヴァンス村を迂回して北へ向かおうとした時、前方に黒い壁が現れた。
「帝国軍……」
本隊だ。一万以上の兵士が、ノルド砦を包囲している。
誠一が砦に近づくためには、この包囲網を突破しなければならない。
「……やるしかない」
誠一は、覚悟を決めた。
全速力で、敵陣に突入する。
「来たぞ! あの化け物が来たぞ!」
敵兵たちが、騒ぎ始めた。
「捕らえろ! 殺せ!」
矢が飛んできた。剣が振り下ろされた。魔法が放たれた。
だが——。
「効かねえよ」
誠一は、すべてを弾きながら、敵陣を駆け抜けた。
正面から突破。右翼に回り込み、また正面へ。敵の陣形を引っ掻き回しながら、砦へ向かって進んでいく。
「一時間……」
ステータス画面を確認する。連続運転時間、一時間。
「まだ三時間ある……」
だが、砦はまだ遠い。敵の包囲網は、厚い。
「二時間……」
敵兵の数が、増えていく。四方八方から、攻撃が飛んでくる。
誠一は、それをすべて弾きながら、走り続けた。
「三時間……」
ようやく、砦の城壁が見えてきた。あと少し。あと少しで——。
「三時間三十分……」
城門まで、あと五百メートル。
「三時間四十五分……」
あと三百メートル。
「三時間五十分……」
あと百メートル。
「三時間五十八分……」
あと五十メートル。
「三時間五十九分……」
城門が、目の前にある。手を伸ばせば、届きそうな距離。
だが——。
【四時間経過】
【スキル強制停止】
【休息期間:30分】
誠一の体から、力が抜けた。
「がっ——」
地面に、倒れ込んだ。
体が、動かない。まるで、鉛の塊になったように。
「くそっ……」
城門まで、あと五十メートル。手を伸ばせば届く距離なのに、体が動かない。
「門を……開けてくれ……」
叫んだ。だが、声は届かなかった。
敵兵たちが、誠一を取り囲んだ。
「やっと止まったぞ!」
「殺せ! 今のうちだ!」
剣が、誠一に向かって振り下ろされた。
——終わりか。
そう思った。
だが——。
「セイ!」
声が聞こえた。
城門が開き、王国軍の兵士たちが飛び出してきた。
「守れ! あの男を守るんだ!」
「敵を押し返せ!」
激しい戦闘が、誠一の周りで繰り広げられた。
「セイ! 大丈夫!」
リーネの声だった。
「リーネ……」
「動かないで。すぐに、中に運ぶから」
誠一は、担架に乗せられた。
城門をくぐり、砦の中へ。
「助かった……」
呟いた。
「ええ、助かったわ。荷物は?」
「ある……全部、持ってきた……」
「良かった……本当に、良かった……」
リーネの声が、震えていた。泣いているのかもしれない。
誠一は、目を閉じた。
「三十分……待ってくれ……それまで……」
意識が、遠のいていった。




