表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の走行距離(マイレージ)、異世界でも積算中 ~追放された陰キャ長距離ドライバー、最強の"運び屋"として覚醒する~  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/20

第十五章 点呼の奇跡

戦況は、膠着状態に入っていた。


帝国軍の補給線妨害が効いていた。食料と矢弾の不足で、帝国軍の攻勢は鈍っている。かといって、王国軍も反撃に出るだけの余力はない。


「睨み合いが続いている」


ヴェルナーが地図を見ながら言った。


「帝国軍は、補給が回復するまで大規模な攻撃を控えるだろう。我々も、援軍が到着するまで守りを固める」


「援軍は、いつ来るんですか」


「あと五日。それまで持ちこたえれば、勝機が見える」


五日。長いようで、短い。


「俺は、輸送を続けます」


誠一は言った。


「補給さえ維持できれば、五日は持つ」


「頼む。お前だけが、唯一の命綱だ」


その日も、誠一は王都への往復を行った。


朝、ノルド砦を出発。三時間でヴァンス村。三十分休息して、一時間で王都。荷物を積み込んで、再びヴァンス村へ。休息して、ノルド砦へ。


「ただいま」


砦に戻ると、リーネが出迎えてくれた。


「おかえり。今日も、予定通りね」


「ああ。物資は十分に積んできた」


「ありがとう。でも、少し休んで。顔色が悪いわ」


「大丈夫だ。俺は——」


その時、城壁の上から叫び声が聞こえた。


「敵襲! 敵襲だ!」


「何——」


誠一とリーネは、顔を見合わせた。


「攻めてきたのか」


「だめ、こっちに来て!」


リーネが誠一の手を引いた。


二人は、城壁の上に駆け上がった。


そこで見た光景に、誠一は息を呑んだ。


「あれは……」


北の地平線が、黒く染まっていた。


帝国軍だ。数千、いや、一万以上の兵士が、砦に向かって進軍してきている。


「本格的な攻撃だ……」


「補給が回復したのか? それとも——」


「やけくそだろう」


ヴェルナーが駆け寄ってきた。


「長期戦では不利と判断して、短期決戦に出たんだ。一気に砦を落とすつもりだろう」


「対応は?」


「籠城するしかない。城壁の上から、矢と魔法で迎え撃つ」


「俺は——」


「お前は、中に入っていろ。城外に出たら、敵に狙われる」


「でも——」


「今は守る時だ。攻める時じゃない」


ヴェルナーの声は、有無を言わせない口調だった。


誠一は、唇を噛んだ。


自分にできることは、走ることだけ。だが、今は走る場所がない。


「……分かった」


誠一は城壁から降りた。


戦闘が始まった。


帝国軍は、怒涛のように押し寄せてきた。梯子をかけ、城壁をよじ登ろうとする。王国軍は、矢を放ち、石を落とし、必死に防いだ。


「くそっ……」


誠一は、砦の中庭で拳を握りしめていた。


何もできない。ただ、待っているだけ。


「セイ」


リーネの声がした。


「大丈夫?」


「ああ……いや、大丈夫じゃない。俺は何もできない」


「今は、できることをやりましょう。負傷者の手当てとか、物資の管理とか」


「……そうだな」


誠一は頷いた。


走れないなら、別の方法で貢献する。それが、今できることだ。


戦闘は、三時間以上続いた。


帝国軍は、何度も城壁に取りついた。王国軍は、そのたびに撃退した。死傷者は、両軍合わせて数百人に上った。


「持ちこたえた……」


日が暮れる頃、帝国軍は撤退を始めた。


「明日また来るだろう」


ヴェルナーが言った。


「今日は、様子見だ。本気の攻撃は、明日以降になる」


「矢弾は、持ちますか」


「ギリギリだ。お前の輸送がなければ、とっくに底をついていた」


「明日も、輸送を続けます」


「頼む。だが、気をつけろ。敵も、お前を狙ってくるはずだ」


「分かっています」


その夜、誠一は眠れなかった。


明日の戦闘のことを考えていた。帝国軍は、本気で攻めてくる。王国軍は、持ちこたえられるのか。


そして——自分は、何ができるのか。


「セイ」


ノックの音と共に、リーネの声がした。


「起きてる?」


「ああ」


ドアが開き、リーネが入ってきた。


「眠れない?」


「ああ。明日のことを考えると……」


「私もよ」


リーネは、誠一の隣に座った。


「怖い?」


「……ああ」


誠一は正直に答えた。


「怖い。戦争なんて、経験したことがない。俺にできるのは、走ることだけだ。でも、それが本当に役に立っているのか、分からなくなる時がある」


「役に立ってるわ」


リーネの声は、力強かった。


「あなたがいなければ、この砦はとっくに落ちていた。みんな、あなたのおかげで戦い続けられている」


「……そうかな」


「そうよ。だから、自信を持って」


リーネは、誠一の手を取った。


「私たちは、仲間でしょう? 一緒に乗り越えるのよ」


「……ありがとう」


誠一は、リーネの手を握り返した。


「明日も、頑張る」


「うん。頑張りましょう」


翌朝。


誠一は、いつも通り点呼を行った。


「バルト」


「ここだ」


「レオン」


「はいっす」


「ゴルド」


「おう」


「リーネ」


「はい」


「ソフィア」


「います」


「トム」


「はい」


「ナタリー」


「はい」


全員、無事だった。


「よし、今日の配置を確認する」


誠一は地図を広げた。


「俺は、王都への輸送を続ける。バルトとレオンは、砦の防衛に参加。ゴルドは、車両の整備。リーネとナタリーは、配車管理。ソフィアとトムは、物資の管理」


「了解」


「何か質問は?」


「ボス」


バルトが手を上げた。


「今日の戦闘、相当激しくなるぞ。俺たちも、前線に出た方がいいんじゃないか」


「駄目だ」


誠一は首を振った。


「お前たちは、輸送のプロだ。戦闘のプロじゃない。無理に前線に出ても、足手まといになるだけだ」


「でも——」


「俺たちの仕事は、届けることだ。戦うことじゃない。自分の役割を、しっかり果たせ」


バルトは、不満そうな顔をしたが、反論はしなかった。


「分かった。お前の言う通りにする」


「頼む」


点呼を終え、誠一は出発の準備を始めた。


その時——。


「敵襲! 敵襲だ!」


城壁の上から、叫び声が聞こえた。


「もう来たのか……」


誠一は、窓の外を見た。


昨日と同じ光景。北の地平線が、黒く染まっている。


だが、何かが違った。


「あれは……」


誠一の目が、点のように小さな一団を捉えた。


砦の東側。城壁から少し離れた場所に、別の部隊がいる。


「別働隊だ」


リーネが言った。


「本隊が正面から攻撃している間に、別働隊が横から奇襲をかける作戦よ」


「くそっ——」


誠一は走り出した。


城壁の上に駆け上がり、東の方角を見る。


別働隊は、砦の外壁に向かって進軍していた。百人、いや、二百人ほどか。本隊に比べれば少数だが、無視できる人数ではない。


「あそこは、守りが手薄だ」


ヴェルナーが言った。


「正面の防衛に人員を割いているから、東側には十人しか配置していない」


「増援は?」


「送れない。正面から攻められている時に、東に人を回す余裕はない」


「じゃあ、どうする」


「……持ちこたえるしかない。東の守備隊が、どこまで粘れるか」


誠一は、東の城壁を見た。


十人の兵士が、必死に弓を放っている。だが、敵の方が圧倒的に多い。このままでは、突破されるのは時間の問題だ。


「俺が行く」


誠一は言った。


「何?」


「俺が、東の守備隊を助けに行く」


「馬鹿を言うな! お前一人で何ができる!」


「走れる。走っている間は無敵だ。敵の中を走り回って、撹乱すればいい」


「それでも——」


「これしか方法がない」


誠一は、ヴェルナーの目をまっすぐに見つめた。


「俺を信じてくれ」


ヴェルナーは、しばらく沈黙した。


「……分かった。だが、死ぬなよ」


「死なない。届けるものが、まだあるからな」


誠一は、城壁から飛び降りた。


誠一は、東の城壁に向かって走った。


スキルを発動。全速力で、砦の中を駆け抜ける。


「セイ!」


リーネの声が、背後から聞こえた。


「気をつけて!」


「ああ!」


誠一は、東の門に到着した。


門の向こうには、敵の別働隊が迫っている。梯子を担いだ兵士たちが、城壁に向かって殺到していた。


「くそっ——」


誠一は、門を開けた。


「何をしてるんだ!」


守備隊の兵士が叫んだ。


「援軍だ。俺に任せろ」


誠一は、門の外に飛び出した。


敵の兵士たちが、一斉に誠一を見た。


「何だ、あいつ!」


「一人で出てきたぞ!」


「殺せ!」


矢が放たれた。剣が振り下ろされた。


だが——。


「効かねえよ」


誠一は、敵の攻撃をすべて弾きながら、敵陣の中を走り抜けた。


「な、何だ……!」


「化け物だ!」


「逃げろ!」


敵兵たちが、混乱し始めた。


誠一は、その隙を突いて、敵の隊列を引っ掻き回した。走りながら、梯子を蹴り倒す。武器を叩き落とす。旗を引き抜く。


「追え! 追うんだ!」


敵の指揮官が叫んでいるが、誰も追いつけない。


誠一は、敵の中を縦横無尽に走り回った。


「これで……どうだ!」


十分ほど経った頃、敵の別働隊は完全に混乱状態に陥っていた。指揮系統が崩壊し、兵士たちは右往左往している。


「今だ!」


城壁の上から、王国軍の矢が降り注いだ。混乱した敵兵は、次々と倒れていく。


「撤退だ! 撤退しろ!」


敵の指揮官が、ようやく命令を下した。


別働隊は、散り散りに逃げていった。


「やった……」


誠一は、息を切らしながら、城門に戻った。


「すごい……あんた、一人で……」


守備隊の兵士たちが、呆然と誠一を見つめていた。


「礼はいい。まだ、戦いは終わっていない」


誠一は、正面の戦況を確認した。


本隊の攻撃も、勢いが弱まっている。別働隊の敗北が、士気に影響しているようだった。


「今日は、持ちこたえられそうだな」


呟いた。


だが、その時——。


「ボス! 大変だ!」


バルトの声が、城壁の上から聞こえた。


「何だ!」


「ギルドのメンバーが——リーネたちが——」


「何があった!」


「敵の別働隊に——南側から、別の部隊が侵入した! リーネたちが閉じ込められてる!」


誠一の血が、凍りついた。


「リーネ——」


誠一は、南側へ向かって走った。


全速力で、砦の中を駆け抜ける。


「くそっ、くそっ、くそっ——」


心臓が、破裂しそうだった。


別働隊は、二つあったのだ。東側だけでなく、南側からも。俺が東に気を取られている間に、南側から侵入された。


「リーネ——」


南側の倉庫エリアに到着した。


煙が立ち上っている。火の手が、あちこちから上がっていた。


「リーネ! どこだ!」


叫んだ。返事はない。


誠一は、倉庫の中を走り回った。瓦礫を掻き分け、煙の中を突き進む。


「リーネ! ゴルド! レオン!」


名前を呼び続けた。


そして——。


「ボス……!」


声が聞こえた。


「レオン!」


誠一は、声の方向に向かった。


倒壊した倉庫の中に、レオンがいた。足を挟まれて、動けなくなっている。


「大丈夫か!」


「俺は平気っす……でも、リーネさんたちが——」


「どこだ!」


「あっちの倉庫に——敵兵と一緒に——」


誠一は走り出した。


指さされた方向に、大きな倉庫があった。扉は閉まっている。中から、剣戟の音と悲鳴が聞こえる。


「リーネ——」


誠一は、扉を蹴り破った。


中には、十数人の敵兵がいた。そして——。


「セイ!」


リーネの声だった。


彼女は、倉庫の隅に追い詰められていた。ゴルド、ナタリー、ソフィア、トムと一緒に。バルトが、必死に敵を食い止めている。


「助けに来たぞ」


誠一は、敵兵の中に飛び込んだ。


スキルを発動したまま、敵を押しのけ、蹴散らし、仲間のところに駆け寄る。


「みんな、無事か」


「ああ、何とか——」


バルトが答えた。肩から血を流している。


「怪我してるじゃないか」


「かすり傷だ。それより——」


敵兵たちが、態勢を立て直していた。


「殺せ! 全員殺せ!」


「逃がすか——」


誠一は、仲間を背後に庇った。


「俺が、道を開ける。みんな、俺の後ろについてこい」


「セイ——」


「行くぞ!」


誠一は、敵の中に突っ込んだ。


走りながら、敵を押しのける。剣で切りつけられても、効かない。矢を射られても、弾かれる。


「こっちだ!」


仲間を引き連れて、倉庫を脱出した。


外に出ると、王国軍の兵士たちが駆けつけてきていた。


「援軍だ!」


「敵を追い払え!」


戦闘は、すぐに終わった。


南側から侵入した敵兵は、全員、撃退された。


「……はあ……はあ……」


誠一は、地面にへたり込んだ。


体中の力が、抜けていく。


「セイ!」


リーネが駆け寄ってきた。


「大丈夫? 怪我は?」


「俺は平気だ……お前こそ——」


「私も平気よ。あなたが助けに来てくれたから」


リーネは、誠一の手を取った。


「ありがとう」


「……礼はいい。俺は、自分の仕事をしただけだ」


「仕事?」


「ああ。仲間を、安全な場所に届けるのも——運び屋の仕事だろ」


誠一は、力なく笑った。


「それより……みんなは?」


「全員、無事よ。怪我人は何人かいるけど、命に別状はないわ」


「そうか……よかった」


誠一は、空を見上げた。


夕焼けが、西の空を赤く染めていた。


「今日も……生き延びた」


呟いた。


「ええ。生き延びたわ」


リーネも、空を見上げた。


「セイ」


「何だ」


「どうして、すぐに私たちの場所が分かったの?」


「……点呼だ」


「点呼?」


「朝、点呼を取っただろ。みんなの配置を確認した。だから、どこにいるか分かった」


リーネは、目を見開いた。


「そう……あの点呼が……」


「点呼は、命を守る儀式だ」


誠一は、立ち上がった。


「日本でも、異世界でも、それは変わらない。毎日の積み重ねが、いざという時に命を救う」


「……」


「だから、俺はこれからも続ける。朝の点呼。車両点検。スケジュールの確認。全部、意味がある」


リーネは微笑んだ。


「あなたらしいわね」


「そうか?」


「ええ。とても、あなたらしい」


誠一は、照れくさそうに頭を掻いた。


「さて、明日の準備をしないとな。戦争は、まだ終わっていない」


「そうね。一緒にやりましょう」


二人は、砦の中へ戻っていった。


夕焼けが、二人の背中を照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ