第十三章 兵站を断て
作戦開始から三日が経過した。
誠一は、一日二往復のペースで、物資を運び続けていた。
「今日も、予定通りだ」
ノルド砦の倉庫に、物資が積み上げられていく。
「セイ、すごいわ」
リーネが感嘆の声を上げた。
「三日間で、合計六トンの物資を運んだのよ。一人で」
「まだまだだ。戦争は、これからが本番だ」
実際、戦況は予断を許さなかった。
帝国軍の包囲は、日に日に厳しくなっていた。東西の別働隊が、補給線を完全に遮断。通常の馬車では、砦に近づくことすら不可能だった。
「セイの輸送だけが、唯一の命綱だ」
ヴェルナーが言った。
「お前がいなければ、とっくに干上がっていた」
「光栄です」
「だが、敵もそれに気づき始めている」
「どういうことですか」
「偵察隊の報告によると、帝国軍が『高速で移動する存在』について調査を始めているらしい」
「……」
「お前のことだ。敵は、お前を排除しようとしている」
誠一は、眉をひそめた。
「排除か……」
「ああ。おそらく、待ち伏せを仕掛けてくるだろう。気をつけろ」
「分かりました」
その日の夜。
誠一は、いつも通り王都からの帰路についていた。
ヴァンス村での休息を終え、ノルド砦に向かう途中——異変を感じた。
「……何だ?」
空気が、違う。いつもの道なのに、何かがおかしい。
誠一は速度を落とした。警戒しながら、周囲を見回す。
前方の森の中に、光が見えた。松明の光だ。
「待ち伏せか」
予想通りだった。
誠一は、瞬時に判断した。迂回するか、突破するか。
「……突破する」
スキルを発動し、全速力で走り始めた。
森の中から、帝国兵が飛び出してきた。弓を構え、剣を振りかざし、誠一に向かってくる。
「無駄だ」
矢が放たれた。誠一の体に向かって。
だが——。
「効かねえよ」
矢は、誠一の体に触れる寸前で弾かれた。透明な壁に阻まれたように。
「な、何だ……!」
帝国兵たちが、動揺する。
誠一は、その隙を突いて駆け抜けた。森を抜け、丘を越え、ノルド砦に向かって。
「追え! 追うんだ!」
背後から、叫び声が聞こえた。だが、誠一に追いつける者はいなかった。
三十分後、誠一はノルド砦に到着した。
「はあ……はあ……」
息を整える。緊張で、体が強張っていた。
「セイ! 大丈夫?」
リーネが駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ。待ち伏せを食らったが、突破した」
「良かった……」
「だが、今後は警戒が必要だ。敵は、俺を狙ってくる」
「分かったわ。ルートを変更しましょう」
「ああ、頼む」
誠一は、物資を降ろした後、短い休息を取った。
だが、心は休まらなかった。
「敵は、本気で俺を潰しに来ている」
呟いた。
「ということは——」
誠一は、地図を見つめた。
「俺の輸送が、敵にとって脅威になっているということだ」
つまり、効果が出ている。砦を維持するための物資輸送が、帝国軍の戦略を狂わせている。
「なら、もっと効果的な方法があるかもしれない」
誠一は考え始めた。
「俺たちが物資を運ぶことで、砦を守っている。だが——」
「だが?」
リーネが聞いた。
「逆に、敵の物資輸送を妨害することはできないか」
「敵の?」
「ああ。帝国軍も、補給線を持っているはずだ。三万の兵を維持するには、大量の物資が必要だ」
「確かに……」
「その補給線を断てば、帝国軍は撤退せざるを得なくなる」
リーネは目を輝かせた。
「攻めの物流ね!」
「そうだ。守るだけじゃなく、攻める。それが——」
誠一は拳を握りしめた。
「戦争における物流の本当の力だ」
翌日、誠一はヴェルナーに作戦を提案した。
「帝国軍の補給線を断つ?」
「はい。彼らの物資輸送ルートを特定し、それを妨害します」
「どうやって」
「まず、偵察です。敵の補給隊がどこを通っているか、把握する必要があります」
「それは、すでに調査している。帝国軍の補給は、主に東のルートから行われている。国境を越えた先の、ガルム砦から物資が送られてくる」
「ガルム砦……」
「帝国側の前線拠点だ。そこに、大量の物資が備蓄されている」
誠一は地図を見つめた。
「その砦と前線を結ぶ補給線……ここか」
「そうだ。だが、敵の補給隊には護衛がついている。正面から攻撃すれば、大きな損害を受ける」
「正面からは攻めません」
誠一は言った。
「俺のスキルを使います」
「どういうことだ」
「走っている間、俺は無敵です。敵の攻撃は効かない。だから——」
誠一は地図の上に線を引いた。
「補給隊の横を走り抜けながら、荷物を『収納』する」
「荷物を……奪うのか」
「ええ。敵の物資を、そのまま頂戴する」
ヴェルナーは目を見開いた。
「できるのか、そんなことが」
「『積載無制限』のスキルがあれば、できます。触れたものを、異次元空間に収納できる」
「……」
「敵の補給隊に近づき、走りながら荷物に触れる。それだけで、物資を奪える」
「だが、護衛は?」
「走っている間は無敵です。剣で切られようが、矢を射られようが、効きません」
ヴェルナーは、しばらく考え込んだ。
「……面白い作戦だ」
やがて、頷いた。
「やってみる価値はある。だが、一人で行くな。護衛をつける」
「護衛?」
「バルトと、他の傭兵を数名。お前の後方支援に回る」
「分かりました」
誠一は頷いた。
「明日から、作戦を開始します」




