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世界最強の杖、マジカルチ◯ポ(全年齢版)  作者: わさび醤油
マジカルチ◯ポと愛奪う魔の魅了
2/22

そうだ、旅に出よう

 千年に一度の大雷霆より一月後、南西の魔女の家にて。

 魔女ヒニグ・コ・ドーム。

 通称及び愛称ヒコさんの下へ帰還した俺は、予想通り流れるように研究室へと連れ込まれ、息つく暇もないまま実験体用のベッドに大の字且つ全裸で拘束されてしまい、にたりと恍惚の笑みを浮かべる銀の髪の魔女に全身くまなく調べられていた。


「くくっ、それで? この魔女ヒニグの制止さえ振り切って、あんな宴会でも使い道のない実験道具(おもちゃ)を持ち出して自殺しに行ったと思えば、どうして出会った頃より若く、最早別人と呼べる姿になっているというんだ? なあ、私の最新の娯楽にして、恐らくこの世に二人といないであろう、魔法の才が欠片とてない魔女の弟子たるマニスよ?」

「さあ? ぶっちゃけ俺が聞きたいくらいですよ? どうなってるんですかヒコさん?」


 トレードマークとも言える真っ黒な三角帽と黒いローブを身を包み、俺の体のそこかしこを指で撫で回してくるヒコさん。

 まだ勝手に出ていったことを怒っているのか、いつもの三割増しにネチネチとした嫌味をぶつけてくるが、悪いのは俺なので返す言葉は出てこない。

 けれどそこまで言わなくてもいいじゃないかと言葉を返してみると、生意気だと、起こした風で俺の頭を軽く小突き一人で勝手に進めてしまう。


 その喜々とした表情は、新しい実験体(おもちゃ)を見つけたときと同じもの。

 まあ筋肉以外に外見に取り柄がなかった成人男性が年端もいかない、髪の色さえ違う美少年になってしまったのだから、魔女としては知的好奇心を揺さぶられるのは当然なのだろう。


 俺としては容姿云々にそこまでのこだわりはないものの、長く付き合ってきた自慢の筋肉達が失われてしまったのだから落胆せざるを得ない。何ならこの家に戻ってくるまでの一月、この世の終わりみたいに落ち込みながら帰路についていたくらいだ。


 嗚呼、さようならマイマッスル。

 俺の夢を笑うことなくついてきてくれたお前たちのことは、いつまでも心の中に残り続けるだろう。

 

「むさ苦しいマッチョから金髪の美少年へ。全体的に縮みながらも(しも)は驚くほどにサイズアップ。更には……ふむふむ、なるほどなるほど……くくっ、くははっ! 中々どうして、やはり貴様は面白い。人とは阿呆を貫けば斯様なまでの変化を遂げるのか。恐れ入ったぞ、まさに馬鹿も極めれば何とやらだな」

「一人で納得してないで教えてくださいよ。マジカルチ◯ポ、完成してます?」

「戯けめ、しているはずがないだろう。もしもこのチ◯ポが神話に残るそれに至っているのなら、今頃私はお前のチ◯ポに魂まで屈服し、涎を垂れ流して慈悲を懇願しているだろうよ」


 この魔女ヒニグの無様を見られなくて残念だったなと、ヒコさんはくつくつと、微笑を零してくる。

 

 目の下の深い隈に不健康なほど真っ白な肌。

 手入れされていないぼさぼさの銀髪に、ヨレヨレの白衣のみを着た実質全裸。

 要素だけ挙げればプラスには思えないズボラさは、多くの者の理想と悪夢を壊すだろう。

 

 だがそれでも、そんなマイナス要素が多分にあろうとも、ヒコさんはやはり魔女の名にふさわしき美女。

 エルフと呼ばれる種族と同じ姿をしているらしい彼女は、大前提として生物としての完成度が人間とは異なり、いくら不健康な生活を送っていようとその美と肌の張りを損なうことはない。


 強いて言えば、もう少し胸があってもいいとは思うがそこは個性。俺はヒコさんがヒコさんであれば、どっちだって似合う──。

 

「なあマニス。私はこのサイズに満足しているのだが、下らぬ脂肪の不足を憂いたか? ああ?」


 いえ、何も? ヒコさんは今日もお綺麗だなって、それだけですとも。ええ、はい。


 しかしなるほど、確かにヒコさんの言うとおりだ。

 確かに本物のマジカルチ◯ポは姿を晒しただけで女神を堕とす代物。如何に魔女とはいえ女性であるヒコさんが見て何ともないのであれば、きっとそれはマジカルチ◯ポではないのだろう。


 ……大雷霆なら上手くいくと思ったんだが、やっぱりあんな理論では無理があったか。

 最初にヒコさんへ話したとき、『アホが考えたアホの理論』だとそれはもう笑われたからな。それでもいけると思ってこの家を飛び出したけど、やっぱり師匠の方が正しかったってことか。残念だ。


「くく、くくくっ! くははっ、クーッヒッヒ!」


 年に数度しか見られない、ヒコさんが本当に面白いときだけ出る笑い声が実験室に響き渡る。

 その笑い声を聞いてしまうと、思わず全身に寒気と鳥肌が立ってしまう。

 長い付き合いから分かるが、ヒコさんが本当に笑うときの大体は俺にとってまったくもって面白くない、むしろ厄介事になるばかり。控えめに言って今にも逃げ出したいが、それを見越しての拘束だろう。本当に恐ろしい魔女だよ、ヒコさんは。

 

「えっと、ヒコさん?」

「ああ喜べマニス、私の娯楽よ。有体に、簡潔に、そして偽りなく言うのであればお前の生殖器は、ペニスは……くくっ、チ◯ポは強力な魔法の『杖』になってしまったようだぞ。くくくっ!」


 ドサリとお気に入りの椅子に座したヒコさんは、まったく俺の拘束を解いてくれそうな素振りさえ見せず、くつくつと楽しげに笑いながらとんでもないことを語ってのける。


 俺のチ◯ポが魔法の杖? 何言ってんだこの人、ちょっと意味分かんないんですけど?


「魔法使い、魔女が魔法を行使する際に用いる『杖』。魔法の安定、魔力の増幅など、そして一部は特性の付与など様々な恩恵をもたらす故、魔法を嗜む者にとって必需品であるのは語る必要のない常識だな? その中でも世界で最も優れているとされた『杖』は完全の魔女の最終宝石、アーノマルブ筆である知恵の禁書、そして誰も知らない女神の遺産の三つだったが……くくっ、或いは更新されたやもしれぬな。喜べよ、お前のそれは神話のマジカルチ◯ポよりマジカルなチ◯ポだぞ?」


 微塵も恥じらいを顔に出すことなく、あけすけなくチ◯ポチ◯ポと連呼してくるヒコさん。

 チ◯ポはチ◯ポなのに、まるで不健全な用語だと思う方がおかしいとさえ思えるほど、淡々と口にし続ける魔法の師匠に改めて驚嘆しながら耳を傾け続ける。


「どういう絡繰りで起きた奇跡か、大雷霆の持つ無限に近いエネルギーの吸収に成功したチ◯ポは、消失した肉体を魔力に適応出来る形で再構成したのだろう。これ以上は解剖しなければ分からんが、この魔女ヒニグを遙かに凌ぐ魔力を宿したことで、その肉体は既存の人類の一歩先へと進化した状態になっている。いやはや、その小さな体の中にこれほどの魔力を抱えながら、どうして平然としていられるのだろうな?」

「……はっ?」

「ああ、ついでに言えば睾丸から産み出されるはずの精子が全て魔力に置き換わっているな。もしも並の器でしかない女がお前の魔力精子を体内に取り込んでしまえば、孕むどころか高濃度の魔力に当てられておっ死ぬだろうよ。くくっ、くくくっ!」


 ヒコさんは手に持った彼女の杖である白い木の棒を伸ばし、俺のチ◯ポを小突いて面白がってくる。


 ……そうか、俺はもう子供は作れないのか。

 別に相手もいないし結婚願望もないのだが、それでも出来ないと断言されると少し落ち込んでしまうな。


「ま、そう落胆するなよ。例えば魔女や高レベルの魔法使い、それと同等程度に魔力へ耐性のある者であれば孕ませられる可能性もあるだろうさ。子を作る気になったのなら、そういう女を捕まえるんだな」

「いませんよ。友達いないの知ってるでしょう?」

「……そうだな。そういえばそうだった。お前は私以外の女とは碌に関係を持っていないものな。弟子は師匠に似る……くくっ、悪くないよな」


 落ち込んでしまっていたのが伝わったのか、紙に羽ペンで記録し始めたヒコさんはこちらに目を向けることはなくとも、からかい半分で慰めてくれる。優しい。

 

「しかしそうか、かの女神の雷霆でさえもマジカルチ◯ポには至らないか。ならば最早お前が求めるマジカルチ◯ポなどはなから先人共のでたらめで、かの女神もチ◯ポではなく愛に堕ちたのが真実かもしれんな」


 ボソボソカリカリと、ヒコさんの独り言と羽ペンの滑る音だけが響き続ける実験室。

 すっかり忘れられた俺は、大の字でしばらく考えをまとめて、そして次にするべき道を選択する。


「ヒコさん。俺、旅に出ます。本物のマジカルチ◯ポへ辿り着くための、新しい方法を見つけるための旅に」

「何だマニス、私の娯楽よ。まさか拒絶の魔女が、目の前にいる絶好の実験体の研究を逃がすと本気で思っているのか?」

「いえ、でも逃げます。俺にはやるべきことがある。どんな形であれ、マジカルチ◯ポへの道を一歩前進したのです。だというのに、こんな所で歩みを止めてなんていられない」


 視線を移すことなく話すヒコさんを否定した俺は、この拘束を抜けようと四肢に力を込めた。

 直後、ガキンと、乗っていた台ごと枷を壊してしまい、そのまま一度崩れ落ちてしまう。

 あんまりな物音に流石のヒコさんもペンを止め、珍しく面食らったような顔をしていることに驚きながら、ゆっくりと立ち上がって埃を払う。


「……その枷、力の入らぬ態勢であれば上位の魔獣であっても拘束出来る特別製なんだが?」

「なんか力入れたらいけました。こんな体になりましたけど、筋力は引き継いでるらしいです」


 前のマッチョボディでもこの枷は無理な気がしなくもないが、まあそこはどうでもいい。

 俺の願いに筋肉が答えてくれた。このパワーはもしかしたら、消えてしまったフレンド達の餞別なのかもしれないな。


「……なあマニスよ、忠告代わりに一つ聞け。そのマジカルなクソバカチ◯ポは今や最上の『杖』と成り果てている。もしも価値を知る者に見つかれば、それこそ血眼を通り越した目で、例え如何なる犠牲を払おうと求めてくる代物だ。つまりこの私がお前の体を余すことなく研究し、何らかの対処を施すまで大人しく待つのがマジカルチ◯ポへの最善最短最適解なんだが、そこんところ理解した上での愚答か?」

「どっちでもいいです。俺は今、この歩みを止めたくない。それだけです」


 手を止めて、机に羽ペンを置いたヒコさんはじとりとこちらを見つめながら諭してくる。

 

 嗚呼、分かっているとも。

 口や態度じゃそうは見えないが、何だかんだヒコさんは心配してくれているのだと。それじゃ理解出来ないほど、目の前の人との付き合いは短く浅いものではないと自分では思っている。


 ──それでも、そうだとしても、だから俺は足を止める理由にはならない。


 結局の所、かつての英雄のマジカルチ◯ポが実在しようが、昔の人が面白半分で嘯いただけの伝説かなんてのはどうでもいいことでしかない。

 俺はただ、子供の頃に憧れたあのマジカルチ◯ポを手に入れたい。

 誰しもが笑い、軽蔑する自分だけの夢のためにこの人生を貫きたい。それだけなのだから。


「……はあっ、はーあっ。まったく度し難いほど愚かな断言だ。ほんと私の人生で指折りに爛々とした目で夢を語ってくれるよな、お前は」


 数秒見つめ合った後、ヒコさんは大きなため息と共に椅子から腰を上げ、俺のそばへと寄って人差し指で額を軽く弾いてくる。

 ついこの前までは俺の方が背が高かったのに、今じゃこうして見下ろされる始末。そのせいで、ヒコさんがいつにもまして大人びて見えるのだから人生とは不思議なものだな。


「いいだろう。そこまで宣うのなら好きに歩み、好きに探求し、好きに後悔するといい。何も知らない他人が嘲笑おうとも、この魔女ヒニグだけはお前の愚かな夢と選択と失敗を肯定してやろうとも」

「……ありがとうヒコさん。やっぱり大好きです、ヒコさん」


 感謝を示すためにぎゅっと抱きつくと、疎ましげな顔しながらも背中に手を回してくる。

 『私への感謝は態度で示すように』と弟子になってしばらく経ったあるときからこうしろと言われるようになったが、別に背丈が変わったとて、やっぱりヒコさんとの距離は変わらない。

 

 すっかり鼻が慣れてしまった、の薬草と彼女特有の魔力の合わさった独特だが不快ではない匂い。

 俺が弟子になってからは食事をするようにこそなったが、それでも肉など増えない華奢すぎる体躯。

 

 出会って以来、決して変わることのないヒコさん。

 死と老いさえ拒まれ世の全てを諦めた、呪われし魂を持つ拒絶の魔女。


 されど彼女が人の証たる、この温もりはどこまで心地良く。

 俺の夢を笑いながらも嗤わず、道を示してくれた人。嗚呼、だから俺は必ずやあなたに──。


 ……それにしても、ちょっとというか、そこそこ臭うな。

 ヒコさんの匂いはいつも通りだから……さてはこの黒ローブ、何日間か着続けてるな。相変わらず、俺がいなきゃ研究して寝るだけの物臭なんだから。まったく、仕方ない人だ。


「……ふん。さ、そうと決まればとっとと体を流せ。長い旅になりそうだし、久しぶりに風呂は入っておかねばな」

「えっとヒコさん、なりそうというのは?」

「当たり前だろう、私の世話を誰がすると思ってるんだ。……なあに、ちょうど私も世の発展も知りたくなった所だ。研究も行き詰まっていたし、ここらで気分を変えるのも悪くはないだろう。な?」


 そうして俺から離れヒコさんは、愉悦に充ちたように口角を吊り上げてから、自身の着ている黒一色のローブを脱ぎ捨てながら浴室へと歩き出してしまう。


 一度決めれば自分の気分以外では決して譲ることのない、傍若無人の体現者たるヒコさん。

 どうやら久しぶりの師匠との旅になりそうだと、少しの面倒臭さと嬉しさを抱きながら彼女の脱ぎ去ったローブを手に取り、彼女の後へと続いていった。

読んでくださった方へ。

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