エルジュの回復術
「お金はせびらないけど、ひとつお願いがあるのですが?」
「お、なんだ? とりあえず言ってみろ」
「なにぶん文無しなもので。その……薬草でいいので貸してください」
「薬草1個、10Gになりますが……貸したら返してもらえるのか? 薬草を使用せずに見るだけか? 見るだけならタダだよ、ほれ!」
懐から取り出した薬草をテーブルの上にポンッと投げ置いてくれた。
さすがは脳筋の戦士だけのことはある。薬草を所持しているんだもん。エルジュはそんな風にナルケルをキラキラした眼で見つめ返した。
そのうえで、ナルケルに説明を始めた。
「いつものオレの魔法陣を床に展開しますから、そこに薬草を1個放り込みます。薬草はそこで消化されます。そしたら魔法陣にナルケルさんが入ってください。ナルケルさん、いま結構HP減ってますよね? それって薬草1個で全回復するもんですか?」
「馬鹿言うな、俺の体力はハンパねえから、そんなもんで満たされるわけがない」
「じゃあ安心しました。では薬草をポイッと!」
「お、なんだ? いつもの真っ白な陣が草原みたいに緑色に変わったな!」
普段から見せつけていた魔法陣の色は白い。その陣はこれまで一度たりとも変化をもたらさなかったようだ。今回は色に変化があったと熟練の冒険者が確認してくれた。
準備が良ければ前説どおりに魔法陣へ足を運べと促すエルジュ。
「さあ、どうぞ薬草魔法陣へお入りください!」
「ふーん、変化があるから魔法を覚えたのは本当みてえだな。さて効果はいかほどだ?」
ナルケルの口ぶりは、どうせ薬草1個分の回復なのだろうと言わんばかりだ。
ナルケルが席を立ち、魔法陣に入るのを見計らうと、エルジュはなにやら声を張り上げた。
「ミリオンスロットっ! 彼者に回復の恩恵あらんことを!」
「な、なんだ? いっちょ前に詠唱か?」
次の瞬間だった。魔法陣がナルケルを中心に高速回転を始めた。
緑色の風とも呼べるオーラがナルケルを轟轟と包み込む。
あっけにとられたナルケルだったが。
「はい、おしまい!」
エルジュの声で魔法陣はすっと消えてしまった。
「どうですか? ご自身のステータスパネルを参照してくださいね!」
「うおお! なんじゃこりゃあああー!!?」
ステータスなど覗かなくても充分体感しているようだ。
エルジュはにんまりして口を開く。
「その分だときっちりと全回復されていますね?」
「おお、確かに! すげえじゃねえか!」
「その回復、薬草何個分になりますか? HPいくら回復しましたか?」
「MAX750で、400弱回復したんだが……信じられん」
「薬草1個で70程度の回復でしたね? 5個分以上ですね? ということは差し引き4個分のお代を下さいませんか?」
そう言われて、ナルケルは指折り計算をして返事を返した。
「おい、それじゃほぼ元がとれねえじゃねえか?」
「ですよね? ですから今回は代金はいらないよ。オレの魔法はここからが本番なんだから」
「ほ、本番って? 全回復してんだぞ!?」
「もう一度、ここまでの工程をするので薬草をもう1個ください」
さすがにもう見下す余地がないと判断したナルケルはエルジュの言葉に素直に従って、薬草をいくらでも使えと気前よく複数個をテーブルの上に置いてくれた。