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あらしのまえぶれ⑤


 出来損ないの能力なんてゴミも同じです。

 無能さを嘆くことが日頃よりあったのだろうか。

 女神はすこし残念そうに目を細める。


「エヴァンス様、ピタチマル様……」


 ミジュは二人の名を口にすると思い出を振り返るように言った。



「地上に戻っても誰の役にも立てないだろうからと情けをかけていただき、お二人がここで暮らすことを望んでくださったのをお忘れですか?」


「はて。そうだったかな? エヴァンスは覚えているか?」


 ピタチマルがボソッと漏らした。


「故郷の地上を眺めて風変わりなエピソードを模索しては、お二人の耳に届けましたら興味深くお聞きになってくださいました」


「ああ確かに。多少は気分転換になったが。とくに退屈だったわけではない」


 エヴァンスとピタチマルが天界に留まることをミジュに薦めた張本人だった。

 地上に戻ると役に立たないとは酷い言われようだ。

 その不出来な能力のせいなのか。


 それからミジュはここで暮らし、二人を兄のように慕いだしたということか。


「それでも毎日、女神さまだって「退屈しなくて済む」と仰っていただけるので、あたしはその観察眼だけは頑張って磨こうとそれだけを喜びに生きてきた」



『まあ、ミジュったら。ここでは自己卑下をしない約束を忘れましたか?

 天界のルールを守れない方は下界に戻さねばなりませんね』



「ち、ちがうんですっ! そのようなつもりは……。

 女神様、お許しください! どうか! どうか! お許しを!


 でも──地上に戻されるなら、あたし。

 あの子の役に立ちたい。


 だけど、ご存じのように妖精が地の民の前に姿を現せば「姿を隠すチカラ」が失われ、きっと悪い人族に捕獲されて、あたしもあの子の辛い人生の二の舞になってしまいます」


『無力だと言いながら、ミジュは地上に戻りたくなっているのではないですか?』



 女神の指摘に顔を上げた。

 地上の人々が恋しくなったのではと言われて、ハッとしたのだ。

 だが妖精も人前には立てない事情がある。無理をすれば囚われとなる可能性が大きいと。



「たった今女神さまは自身を貶める生き方を咎めて叱ってくださいました。

 それなのに即死も同然の人生を歩ませないでください。

 女神様のような最高に徳の高いお方が「矛盾」したお考えをお持ちになってはいけない気がします。女神様、どうかご理解くださいませ!」



 プッ! 聖天使の二人が笑いを堪えていたように噴き出した。


 

「どうにも口が達者になったものだな、ミジュは」


「ピタチマル様、決してそのようなことは……ございません。

 やだ、ピタチマル様。ミジュの口元をそんなにお見つめにならないで!」


「たしかにピタチマルの言うとおりだね。

 たくましくなったよ、ミジュは! あっはっは!

 うるわしの女神デアディアに向かって「矛盾」を楯に反論とは」


「うわぁん。エヴァンス様までっ! や、やめてくださいませ。

 お二方とも、からかいになるのはおやめになってくださーい!

 うえぇ~~ん、女神様たすけてください!」



『ミジュったら、甘えん坊なのだから。

 まるで子供ですね。

 さあ涙をお拭きなさい。地上に戻すなんて本気ではないのですから』


「もう女神様──!

 びっくりさせないでくださいよ。

 心臓が破けるくらい驚いたんですから、ね。……グスン」





「それで、生じた手違いとはどのようなものだ?」


 冷静に考えれば原因の探求が肝心だ。

 不意にエヴァンスが尋ねた。


「なにか心当たりがあるように聞こえたのだが?」


「そ、それなのですが……。二十数年前に女神さまの代行で人族の転生者を担当しまして」


『ミジュ、それはおかしいですね。手違いなど起こりようのない雑務でしょう?』


「転生者の件ですか。稀にいる、異界からの来訪者にユニークスキルを授けるお役目ですね。彼らがこの魔物のはびこる魔法世界に順応できるように計らうための女神様のご聖業……でございましたね」


 エヴァンスが女神に確認を取ると、ピタチマルもミジュに向けた。

 

「如何なるスキルであっても彼らがそれを選ぶことはできない。ゆえにどのように活かすかは彼らの運命なのだ。授けた側に責はない。ミジュ、それを手違いなどと言っては女神様の聖業を謗るようなものだぞ」



 女神もピタチマルの意見に賛同し、ミジュを慰めた。

 そなたが責任を感じる必要性は全くないのだと。



『地上が恋しい訳ではないなら、もう忘れることです』



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