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互いの気持ち

 サルッチとしてはまだ言いたいことがある様だが。


「このくらいにしとくよ」


 いまさら愚痴をこぼしても始まらない。

 割り切っていける様に努力はすると示した。

 サルッチから耳の事情も併せて聞かされた内容に虚しい顔をするオトジ。


 様々に複雑な気持ちがあることだ。

 こちらの世界内だけの誘拐なら帰ることも叶うだろう。

 しかし、彼らの能力で別の世界に転移して来たとなれば。

 自動的に効力切れを待てば、サルッチが消費物としてこの世から消えていたらしい。


「どれも、あんたらの身勝手な都合のせいだ。とにかくコレは、つけ耳じゃないから外すことは出来ない。そのことは理解しなさいよ」

「わ、わかったよ。しかし、これでは……本物として押し通すしかないな」

「はあ!?」


 いま何といったんだ、この男は!? サルッチは顔をしかめる。


「押し通すって、なにをです?」

「だってその耳は説明のしようがないじゃない。この世界じゃ……」

「ちょっと待ってよ。事故でケガをして治療で変形しただけとか。言い訳なんていくらでもあるでしょう? なぜ押し通すんだ?」


 頭の中に浮かんだ疑問符はオトジをじっと見つめて解消してもらうしかない。

 サルッチは言い訳ぐらい考えればいいと、むくれて見せる。

 オトジが何気に問う。


「この世界には傷の回復手当をする魔法があるんだ。俺たちが異世界から来たことは住人達には通用しない。信じてはもらえなかった。冒険先で正気を失くす人らがいるためだ。剣で斬られた腕など回復薬でもくっつくし、人間の耳を他種族のものなどにしたら奴隷にされてしまう時代があったワケだよ?」


 亜人の奴隷か。それは……さっきモンタナから聞いた話だ。

 ならば人の形状に戻すようにできているんだな魔法は。

 サルッチは小さく呟いた。

 ここではオトジが知識の先輩だ。「押し通すしかない」その言葉の意味が少し怖かったが。


「押し通すって、僕、エルフでずっと過ごすのか。そもそも妖精王が見破るんじゃないの? ウソの登録なんかしたら罰せられるんでしょ?」

「ああ。オーガ族の国に強制送還だな……」

「なんでもっと早く言わないんだよ! 冒険者登録済ませた後で知らされても」

「す、すまない。妖精王の詳細は俺も今日、ここへ来て知ったんだ…」

「僕が誘拐以前に長耳だったんだから二人の家にいるときに注意をくれれば、冒険者なんて諦めるしかないと判断できたのに」


 オトジはエルフ族を実際に見たことがないと、また言った。

 そして「すまない」と意気消沈する。


「もういいよ。僕が身バレしたときに妖精王とかに直談判するよ。人間を裁くチカラがあるのはその神様だけでしょ。一族は奴隷にされていた非力さなんだから」


「た、逞しいんだね。サルッチ、ありがとうな!」

「だから、ひげ剃り後の顔でぎゅうっと抱き着くのやめてよ!」


 頼もしくなったサルッチをぬいぐるみの様に抱き寄せるオトジ。


「僕がずっと成りたかったものなのに、成るしかない状況が実際あると、なんだか後ろめたいよな」


 まさかこんな日が自分に訪れるなんて。

 サルッチの心境にも複雑なものをもたらしていた。

 ハーフエルフとして名乗りを上げる羽目になったのだから。

 二人は改めて、モンタナの待つカウンター前に行くことにした。



強制送還、とかいってるオトジ馬鹿だな。

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