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 目的地に着いたのか。

 ならば、すぐにトランクを開けに来るな。

 俺を引きずり出して乱暴でも働くのだろうか。

 それとも騒がせないようにまた変な薬でも嗅ぐ羽目になるのか。

 全身を拘束具で縛られている身だ。逃げ出すことも叫ぶことも不可能。


 このまま変態どもの性の餌食にされて、身も心もボロボロ雑巾みたいにされて、口封じのために山中に生き埋めにされてしまうだけの末路でおわるのかな。

 再び涙が溢れてきた。わがままいっぱい、もっとしとけばよかった。

 親孝行なんて後回しで、さっさと大学に上がり、裕福さを盾に上流決め込んで暮らしていれば、こんなことにはならなかったはずだ。


 やっぱり後悔しているんだよな。心が弱いな俺。

 窮地に陥ると、人は誰でも本性というものがでるもんだよ。


「ぎゃあ!」


 暗闇に差し込む光が眩しすぎて目が潰れそうになって別の悲鳴を上げる。目隠しをされていたのに眩しさを感じた。トランクが急に開いたんだ。


「おい、君! 早く外に出るんだ、逃げるぞ!!」


 えっ、なになに?

 俺をさらった男がふたり口をそろえて言い放ち、拘束具をすべて外してくれた。

 猿ぐつわも目隠しも外して、見渡した景色は「はにゃ!?」

 どこかの外国の領土なのか? そう、目を疑いたくなる景色だった。


「頭を低くして、車の陰に隠れて、一気に向こうの灌木の陰に回り込むぞ」


 そう言ったのは運転手の男で。


「しっ、静かに声を立てるんじゃない。見つかったら牢にぶち込まれるぞ」


 と、助手席の男が俺に言いながら口元を抑えてきた。

 全く状況が呑み込めていないけど「わかった、わかったから」と首を縦にぶるぶると振って見せた。姿勢を低くして誰かに見つからないように男たちが指さす灌木の陰に移りながら様子を見ることに賛同する。


「なにここ? 軍事施設にでも侵入しちまったのか、と思った。けど手にしているのは槍のようですね」


 手に槍ってどういうことだ? 飲み込めていない状況をよそに奴らの問いが。


「オレは、ハヤト。こっちはオトジだ。君は?」

「え、俺ですか?」


 なんで今さら自己紹介をし合っているんだよ。

 それでも運転手のハヤトが名を教えろと急かすものだから「ザルジー」ですと。

 

「ザルジー? そりゃ良くないねぇ」


 なにが?


「可愛い子の名に濁点が似合わないってことさ」


 オトジが付け加えた。

 可愛いのは知ってる。名前はたしかにプリティではない。

 俺がそう思うが早いか、オトジがさらに言った。


「サルッチにしよう、そのほうがずっと可愛いから、ね!」


 オトジが、ね! と言い放ち優しい笑みを向けてきた。胸がドキっとした。

 え、ちょっとイケメンじゃないか。なんでそんな態度ができるんだよ。

 人さらいのくせに。


「サルッチで決まりだな。よろしくな、サルッチ!」

「よ、よろしくです……って何がですか?」


 ハヤトも、「サルッチよろしく」と爽やかなイケメンスマイルを見せてきた。

 いったい何のよろしくなのだ、おまえら誘拐犯のくせに。


 だがこの状況は、目の前に物々しい訓練兵のような者たちが隊を組んで捕り物をしているのが見えた。道行く町人たちを次々と連行していく様子がうかがえる。何をやっているんだこの者たちは。


 つか、ここはどこなんだ?

 町並みが都心とはまるで違っていて、ビルなど1軒も建っていない。

 もうそんなにド田舎まで走行して来たというのか。

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