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転移のまえぶれ⑤


 男たちにさらわれてからまだ1時間も経過していないと思う。

 車中のカーナビはさすがにGPSでの追跡対策のため切断している。


 トイレを要求された折りに都合よく現れた二人に背後から薬を嗅がされた。クロロホルムという化合物だろうか。咳き込むとすぐに頭痛と吐き気がして眠らされたが車の揺れがひどく、騒音と痛みで意識が戻った。

 そのため、一時的に記憶が飛んでいた。

 車種は同系のものかもしれないが、お客の車は家財道具を積載していたはず。

 後部座席をがっつりと前方に倒して荷物を詰め込んでいたのを思い出してきた。

 それにワゴン車には後部にトランクはない。

 乗せられている車は明らかに合流後の手伝いの男のものだろう。

 同僚がそこまで気づいて事件扱いに至っているといいのだが。


 1時間も走らせている車にピタリと付けている別の車の気配はないのだ。

 それは音で判別できるから。

 舗装のないデコボコ道を好き好んで走る運転手もいないだろう。

 大切な車が傷むだけだからな。

 ある程度は計画だから、二手に分かれた可能性も浮上してきた。

 つまり、うちの引っ越し車両とお客の運転するワゴン車は今も、越先へ向かい走行中ということもあり得るのだ。


 何しろ、2県も跨ぐのだから8時間は掛かる。

 30分の走行距離地点でお客のワゴンと俺も消えていたら、バレバレだろ。

 なかなかの計画的犯行ではないか、と感心をしている場合ではないが。

 確かに、二人の話声しか聞こえて来ないわけだ。

 あのお客は同僚に、

 合流するはずのお手伝いは越先に別行動で向かっている、とでも言い直したのかな。


 同僚よ、どうかその怪しさに気づいてくれ、頼む。

 

 だからか、車内テレビは時折ニュースのチェックに利用しているのは手に取るように耳に届くんだ。

 整形手術を施してもらってから鮮明に聞き分けられるようになった。

 見た目だけじゃなく、より機能的になった耳は俺の自慢なのだ。


 しかし、いったいいつまで車を走らせてるつもりだ。

 こっちは明らかに引っ越し荷物もないだろう。これだけ揺れる道を選ぶのだ、家具を積むのは危険をはらむからな。


 そのうち車内の会話が慌ただしさを増した。

 二人は小さいボリュームで天気予報を聞いていたのだ。

 まだ朝日が昇りきるには早い時間帯だ。天気は良好だったはずなのだが。

 聞こえてくる情報は雷注意報だった。あれは突然やってくるからな。

 雷雨に巻き込まれてはハンドルを誤ることもある、早く止めろよ。


 そう思った次の瞬間だ!

 急ブレーキを踏んだ車体が若干前のめりになり、車体後部が浮いたように感じた。

 何があった?

 いや車を止めただけのようだ。

 運転席と助手席のドアが同時に開く音が聞こえた。

 何だかとても慌てていて、即行で車を止め、即行で車から降りたみたいだ。

 だが足音は立てないように忍び足だ。何者かから身を護るように。身を屈めているのが息遣いから感じ取れた。まだべつの仲間がいたんだろうか。飲み込む生唾も出ないほど緊張が全身を走り抜ける。


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