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転移のまえぶれ①


「さて、どこから思い出せばいいのやら……この際だから誘拐の直前の話からしておきましょうか」


 サルッチは耳のことも含めて語り出す。

 彼を誘拐したのは目の前にいるオトジと、ハヤトという二人の男だ。



 ◇◇



 俺は──絹風(シルフ) 笊弟(ザルジー)── 二十歳のフリーター。都心在住。

 フリーターをしながらゲームだけを楽しみに生きていたゲーマーだった。

 親がそこそこの成金で一人っ子。跡継ぎとして溺愛されていて甘やかされて育ってきたので、両親はほぼ俺の要求に応えてくれた。欲しいものは大抵手にすることができた。のらりくらりとスローライフを満喫していた。


 その極端な例をひとつ挙げると、こんなことまでしてもらったんだ。

 それは小学生の高学年になったころの話だ。


 ゲームに於けるファンタジー世界の住人種族のエルフが格好良くて超可愛くて堪らなかったものだから、聴覚に支障がでない範囲で美容整形を所望したのだ。このイメチェンは恋慕の心に近いものがある。エルフに猛烈な恋をしてしまったのさ。


 どこをどんなふうに、と両親はそう尋ね返してきたよ。


 そんなこと決まっているのだ、エルフなのだから耳ですよ。

 人の子に生まれて、人間の耳を捨て、エルフの細長い耳を整形手術でつけてもらった。

 整形に関して両親は抵抗は感じていたが、俺は「プチだよ、そんなの!」と。

 繰り返して譲らなかった。やがて両親は反対する気持ちを変えてくれた。

 無論そんな変わり者の学友は他にはいない。

 日本広しといえどそんな小学生は俺ぐらいのものだった。

 変人ショタなのだ。

 確かに色眼鏡で見る輩もいた。陰口も多々あった。それでも俺は楽しかった。

 俺の身体は俺のものだ。俺が幸せに暮らすために与えられたものなのだ。

 世間様から指される後ろ指に、両親も耐えてくれていた。感謝している。親子関係はうまく行っており家庭不和など一切なかった。

 ピアスやタトゥーを好きなだけやる人もいるじゃないか。自由のはずなのだ。

 両親は、否定的にとらえていたご近所さんたちを日を追うごとに説得し、理解者に変えていってくれた。本当にありがたいです。


 自分の容姿は大好きだった。日に日に鏡ばかりを見つめていた。もっともっと可愛くなるために身に付ける服装も装飾品もコスプレと思われがちなほど凝りに凝った。身も心も可愛いエルフのショタでした。生まれつき身長は低く、二十歳になっても140Cmにしか伸びなかった。

 大人になってもその愛くるしい美形を保つためにスキンケアも欠かさずしていた。

 親の財産を相続するにあたり、世間知らずとわがままは少し見直さねばと大学は後回しにして働き始めたのだ。自らの判断だ。自分の汗を流して働いて金を稼ぐ、父親が若いころからしてきた苦労を見習って心配ばかりをかけないように、また喜んで欲しくてそれを望んだのだ。


 俺にとっては生みの親だけが自分の本当の理解者だ。あの人たちの想いも大切にしなければと。

 親子間のかけがえのない均衡は自らも保つ努力をしなければいけない。まだ自立できる自信はなかったし、何よりも誰かが自分を見て微笑んでいてくれなければ得られない優越感があることを知っている。優越とは本来そういうもの。



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