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妖精王の命令


 今のは聞き違いかと心の声は一瞬そうつぶやく。

 でも実際はさほど驚きはしていない。この世界の現在どうであれ知ったことではない。せっかく彼女が切り出してくれたのだから見聞しておこう、というだけだ。


「え、神様が人々の前にですか!?」

「そうよ! そしてその種族が人間たちから「亜人」と呼ばれ、長い歴史の中で隷属されてきたことをお知りになったの……」


 亜人への隷属…………いかにも人族のしでかしそうなことだな。


「その亜人ってのは妖精王の家族みたいなものですか?」

「何言ってるの君? エルフやドワーフ……人族じゃない種族のことじゃない! 特にエルフは妖精族の末裔だから妖精王がご立腹になるのは当たり前でしょ!」


 言い方がまずかったようで、受付嬢を憤慨させてしまった。


「あ、はい…………そ、そうでしたね。それでどうなったのですか?」

「人族に対する怒りが全人類に向けられたのよ! 結果、魔王の餌にして地上から抹殺すると世界に宣告されたのよね」


 なんという恐ろしい出来事が。

 しかし街を練り歩いて来たが、人類は無事そうだったぞ。


「えっと、人類は無事みたいですが……?」

「ええ、そこなのよ!」


 そこ……とは?

 俺がキョトンと首を傾げていると。


「冒険者たちって結構そういう種族に優しく接している者もいて、全ての人類が悪い訳でないことを世界中の王族が必死にご説明申し上げたのよ」

「へえェ……それだけで素直に納得されたのですか?」


 それを、鵜呑みにしたとでもいうのか?

 人間を悪と位置付けて断罪すると宣告した妖精の神様がそんなあっさりと?

 あの手の種族はそもそも人間の匂いを嫌い、森を深い霧に包み、人々を迷わせて遠ざけるイメージがある。

 たとえ見つけても。

 口を閉ざし、聞く耳も持たず、早々に立ち去れと人族を忌み嫌うものだと思っていた。

 悪しき行為が発覚したというのにそう簡単に許されるものなのか。


 うん? 受付嬢の瞳に灯がともったように見えたが。


「証言台に立つ「亜人」も少なからず居て「今ある幸せを引き裂かないで」という願いも考慮されたの。その後冒険者ギルドと冒険者が率先して、その不正を正していくなら人間の立てた誓いを長き目で見守る、と仰せになったのです!」


 なるほど。

 いかに王様だろうと貴族様だろうと神様には抗えないもんな。

 そのうえ人間側の女神とは誰もコンタクトを取れない。

 対等に立ち回れる味方がいないとなれば怖れを抱くしかないよな。


 だから、ギルドでの不正は命取りになるってことだったのか。


 登録に慎重なわけだな。責任重大だもんな。

 身分を偽るような嘘つきの冒険者がどれだけ正しい行いを遂行できるのか。

 人間界は各冒険者ギルドが取り締まりを仰せつかったのだな。


 つか、冒険者はモフモフさんらを救い出すイメージのほうが大きいだろ。

 奴隷とかにして、こき使っているのはむしろ貴族たちの気がする。


 だが何とか理解することができた。


 冒険者が、窮地に陥ったご貴族と王族を救った形になったんだな。

 さきほどの酒場の冒険者らの苛立ちに対する彼女のかしこまった態度はそういうことだったか。


 冒険者の立場が、王族、貴族より優位になりがちな世界とは、驚きだよ。



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