顕現
「その妖精王というのは、冒険者ギルドと何か関りがあるのですか?」
おや、受付嬢が目を丸くしているじゃないか。
やれやれだな。
わけを聞かせてもらおうじゃないか。
「サルッチさん、二十歳の大人なら知っていて当然の常識をお持ちでないのはなぜでしょう?」
受付嬢が常識の無さを疑問視している。
冷ややかな眼差しを俺に向けている。
いかん、このままでは「うそつきとサルの子供」の二つ名を持つことになる。
その名はいらない。
恥ずかしすぎるから、絶対いらない。
無意識に首を横にぶるぶると振ってしまった。
すぐに居直り、彼女に視線を戻した。
「冒険者の経験がないから詳しく知らなくても、不思議ではないでしょう」
「まあ、そうね。妖精王は五大陸の種族神です──」
「えー。しゅぞくしん…………か、かみしゃまのことでしゅか?」
あまりに子ども扱いしてくるから猫なで声で甘えてみたのに、
頷くか、頷かないか微妙な表情で見つめ返してくる。
そこは素直に「はい」といってくれてもいいだろ。
「種族神は基本的に長い眠りについているだけの存在で、他の四種族神のうち、人間界だけ神がご不在ですの……」
いきなり何を言い出すんだ。たかだかギルドのお姉さんが神様の存在を出会いがしらの人間に語り出すなんて。
種族が五つ……割と少ないんだな。
そして思わず聞き返していた。
「人間界の神様ってどんな方です? ご不在ってどういうこと?」
「ええ。人間界の神は女神様になりますが、その姿を見た者は居ないのです」
「いない……って。神様ってそんなに身近におられるものなのですか?」
受付嬢はそっと瞳を閉じ、首を横に振ると、
「知らない人もいるでしょう。だから建国した方が王様で、人間界での一番の権力者となる。これくらいは分かりますよね?」
「も、もちろん。そ、それぐらいは……はい」その通りなら王が一番偉いだろな。
人間界の王様の話に変わった。なんだか物々しい雰囲気が漂ってきた。
異世界の女神ってたしかに……人前には現れない感じだな。
受付の彼女は人差し指を立て、深刻そうな顔つきで話を続けた。
「ところがです──」
うん?
「5年ほど前に妖精王がお目覚めになり、お姿を我々の前に、「顕現」されたのです。──知っての通り、神話の中の存在でしかないほどの遠き存在であった神々の一人である妖精王がこの人間界の私たちの前に現れたのです!」
今のは聞き違いか?