不審
「お、俺……いやボク。さ、サル、いやその、さ、サルッチです」言いなれてなくて、声が上ずったじゃないか。全部ハヤトとオトジのせいだ。
「え? お、サル……ですか? 可愛いっ!」
だ、だれが猿ですかっ! どいつもこいつも。
可愛いコールは嬉しいのだが。
異世界なのに、サル=猿の認識……なぜ? 偶然そういった動物がいるんだな。
「サルッチです、緊張しちゃって。おサルじゃありません!」
「ごめんなさ~い。聞き違えてしまって。サルッチさんですね。きゃっ可愛いっ!」
いちいちキャピキャピだな、受付嬢って。可愛いですし嫌いじゃないですよ。
「歳は20歳に成ります」ここはクールに攻め直す。
「え? ウソをついちゃいけませんよ! はやくお酒を飲んでモテたい気持ちも分からないでもないけれど、ウソはいけないよね! 今のはお姉さん目を瞑ってあげるわ、可愛いから。それで、お年はおいくつなんですか?」
「嘘じゃありませんよ! ホントに「はたち」なんですけど。生まれつき背が低いだけなんです、差別の眼で見られるのは侵害です……っ!!」
嘘つき呼ばわりがしつこいので、つい声を張り上げてしまった。
そのせいで酒場に席を設けていた連中がいくらかこちらに注目した。
お客たちが、ガヤガヤとボヤキだした。きっと彼らの何らかの話を一時的に妨害してしまったのだろう。幸先がいいとはよべない、俺。