冒険者
ユーシャルズ・スリープ王都ペンタゴナル隣接区域。
『ロズ・スフィア領の東エリアに位置する、ヴァーメイド伯爵領』
◇
「なにか御用でしょうか?」
「はい、冒険者登録をよろしくお願いします!」
カウンターに近づくと、向こうから声を掛けてきたので早速用件を伝えた。
オトジは少し離れた場所で待機してもらっていた。
だってな。保護者同伴みたいで格好悪いからな。
可愛い子にはカッコよさも求められるわけだよ。
「あまり、お見掛けしないお顔ですが。このデルタの街に住居はあるのですか?」
「それはどうしてですか?」
「居住区のある街で申請されるか、引っ越し後にされるのが通常手続きなのです」
はあ、そういう仕来りなんだね。住所不定は認められないんだな。
だからオトジは中まで案内すると言ったのか。
格好悪いの嫌だから外で待っててよ、と言ったんだけど。
酒場が併設されていて時間帯によっては賑わっているそうだ。込み合うのは早朝と夕刻だそうで。人が遠目に見れば、「ネンネが、親に付き添われてやって来やがった」と見られる。それが恥ずかしいから避けたいなと思っただけだった。
今は早朝ではないけど、午前中。
冒険者は依頼を受けているなら、とっくに出かけている時間帯だそうで。
酒場にまばらに人がいるのが見える。
夜勤明けかな。それとも待合か。飲食だけかもしれないけど。意識してしまう。俺はナルちゃんだから。人が自分をどう見てるのかが気がかりで仕方ないんだ。
仕方ないね。いざとなればオトジを頼ればいいだけだ。
「居住区はこのデルタにあります。よろしくです」
「そうなのね、わかったわ。ではお名前とお歳を教えてください」
随分とソフトタッチな物言いで受け付けてくれるんだな。とても心地いい。