あれから5年
エルジュも多くの活躍を重ねた。
街の冒険者として精一杯働いた。
エルジュの活躍の場は、ナルケルとの初冒険によって一気に開花した。
当時エルジュは15歳。
親友のレオリウスも、幼馴染のジュリアンテも15歳だった。
娘は年頃だからとギルマスのランブルから自分を遠ざけようとしたあの日から、5年の月日が流れようとしている。
もうすぐ皆んな、二十歳を迎えようとしていた。
種族によって新成人の規定は異なるが、人族はこのラインがそれ。
エルフ族の成人年齢は彼らより早く十八歳となっていた。
だがエルフ族のエルジュには、あの日すでに傍には両親の姿がなかった。
エルジュが人を頼り過ぎず、いっぱしに成れる冒険者にこだわり続けたのはこの理由からだ。強くなって諸国をめぐる。エルフの国はいずこに。
ここは人間の国だ。レオリウスの父アルゼンバート・ロウ・スフィア侯爵が統治する人族の街ブルスフィア。いつもの冒険酒場がやけに賑わっている。
「やっとエルジュに追いついた。俺たちもこれで成人だな、ジュリ」
「でも不思議よね。あんなにチビだったエルジュが冒険者になってから日を追うごとに背を伸ばして大きく成れるなんて。もうすっかり一人で出かけて行っちゃうぐらいに」
「ほんと、単なる食べ盛りにロクな食事をしていなかっただけみたいにな」
「140ぐらいにはなったかな。でもまだ伸びるよね? あの子。ねぇ、エルフって人間とは身体能力が桁違いだってよく言われてるから楽しみよね」
エルジュは相変わらず冒険に出かけているようで、その場にはいない。
成人の祝いの宴を開いているようだ。
昼間だが、冒険者たちの姿もけっこうあった。
「ジュリアンテ、もしエルジュが人間だったらレオ様より、彼を選んでいたりして?……ひっくっ」
「ちょっとナルケルさん? やめてよ、変な冗談は!」
「ガハハハハッ!! 今じゃ、エルジュのほうが稼ぐようになって俺ぁ、てっきり心変わりしたのかと思ってな。ガッハハハハ!!!」
「もう、レオからも何とかいってよ!」
「いや俺もはっきりと聞いて置きたいし。ナルケルさんはエルジュの父親も同然の人だから当然気になりますよね?」
「ガハハッハハ!! レオ様も言うじゃねェか! 気にしろ、気にしろ! 気にしなきゃ男が廃るってもんだよな! ガッハッハッハぁぁあ!!! うぐっ…げほ」
「今のどういう意味なのよ、宴は始まったばかりなのにナルケルさんったら。そんなに飲んじゃって。エルジュが戻るまでに酔いつぶれないでよね!」
ナルケルが酒をたらふく飲んで、今にも潰れそうだと盛り上がっているところへ、マスターを呼ぶ声が押し掛けるように店へとなだれ込んで来た。
「こんにちわー!! ミカワ屋で──す! 「空想種」ビール入荷してますか?」
「コンちわースッ!! カシミ屋、王都支店です! いつもの──」
「いつもお世話になってます! バレンチ野、薬問屋です──」
「ウイーっす、ヴィトン類フルーツストアでーす! 新種の弾けるやつ──」
「てやんでぇ! オオエド三軒茶屋ぜよ!「グルグル常夏茶漬け」を──」
多種多様の問屋が入れ替わり立ち代わり入店し、何やら買い求めている。
エルジュが様々に商品開発をしたものをギルドから卸売をしているようだ。
「おーい誰か! 店番を頼むよ!」
今日は冒険者の酒場が祝日みたいな盛況ぶりだ。
ランブルは皆をもてなすのに忙しくして、カウンターの奥から助けを呼ぶ。
「お父さん、わたしがいくわ!」
「おお、新婦の店番も今日が最後かぁ? 俺たちのジュリアンテちゃん、絶対に幸せになるんだぜ!」
ヒューヒューヒュー!と酒だるを片手に冒険者たちの陽気な指笛の音が飛び交っていた。