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順調


 二人はどんどんと勢いづいていく。

 ゴブリンキング相手に苦戦を強いられることもなく。


「エルジュよ。俺は夢を見ているのか? これってキング狩りだぜ!」

「夢じゃありませんよ、頬をつねってあげましょうか?」

「ガハハハッハハ! 言うてくれるじゃねぇか! 俺はこれまでも前衛だったが壁役がほとんどでな、おいしい所のトドメは上ランクの魔法使いや剣士に持っていかれたもんだ。ま、それがPTでもあるんだが」


 長年、冒険者を夢見てきたエルジュにはナルケルの言うことがわかるようだ。

「主役感を感じない冒険でしょ?」エルジュはさりげなく彼に投げかけた。


 ふと足を止めたのはナルケルだ。


 二人は調子づいてダンジョンの奥にまで足を踏み入れていた。

 Dランクの中級冒険者が訪れるゴブリンの森のダンジョンだ。

 中階層ではあったがゴブリンキングがチラホラと出現するポイントはそこから深層階に向かわねばならない。

 腰にぶら下げた水晶ランタンに不備がないか念入りに点検をするためだ。

 深層付近はまだ整備されてない場所もある。灯りを絶やすわけにはいかない。



「最近は仕事帰りになると、駆け出しでソロだった頃が不思議と懐かしく思えていたんだ。俺もお前の歳ぐらいにゃ命の危険も顧みず、がむしゃらに強さだけを求めたもんさ」



 今まさに、そのソロでやりたい放題突き進むという、ボス狩りをしているのだ。

 実質、攻撃を敵にぶち込んでいるのはナルケル一人なのだから。

 徹底的に回復とエンチャント等のバックアップを独り占めして、戦士として鍛え上げた熊のような肉体のフルパワーを討伐に向けられる爽快感は何ものにも代えられない。


 少年のように涼しい目を見せて、ナルケルはその時を振り返る。

 

「いまのお前なら、娘たちにも自慢できるぜ。お前の非力な姿をいつも笑ってきた連中は多い。無垢だった娘たちまでそのことを憐れんでいた。だから家族にはギルドに顔を出させなくしていたんだ」


「それって間違いではないと思います。幼いころから他人を惨めに思う癖がつくと、人を見下しがちな傲慢な大人になるかもしれませんし」


「一丁前なことを。人の目に晒され苦しんできたお前だから言わせてやるが」

「オレ、もっと強くなりたい!」

「ああ成れるさ今に。だが成れたら何がしたい?」

「もっと遠くの世界を見てみたいんです」

「お前も旅がしたいのか? 俺と同じだな──」


 エルジュはたずねた。


「ナルケルさんも、どこかへ行くんですか?」

「あん? 俺はよそから渡り歩いて、わざわざこっちへ来たんだよ」

「そうだったんだ。領主の街は王都と隣接してるから賑やかだもんな」

「うちの奴がここに住まわせてくれるなら一緒になってもいいと言ってくれてな」

「あはっ! それ、よく言う「惚れた弱み」ってやつですね?」


 魔物の棲み処であるダンジョン内に漏れる笑い声。


「ガハハハッ! どこで覚えたんだ、そんなセリフ。まったく言うてくれるぜ!」

「あはは。レオとジュリアンテの影響かな……」


 エルジュは頭をかいて照れ笑いをした。


「ま、それはさておき。夢はまだあるんだ。いつか王都ペンタゴナルに二人の娘と家内を連れて行ってやるんだ! 俺も、もっと上を目指さねばならんのだ」



 やがて談笑の声が消え、二人の姿は更なる闇の向こうへと踏み入る。


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