挑戦
まだ酒場の奥の部屋にいる。
ナルケルと一緒に冒険に出かけられるのが嬉しくて、エルジュは笑顔の塊。
そして、グイグイと話しかけていく。
「PTを組んでもらって感謝します。早速ですがお聞きします」
「なんだ? なんでも聞いてくれ」
「オレにも装備できそうな短剣で一番安いものはありますか?」
「そうだな、それなら「お遊びナイフ」という物が道具屋で5Gで買えるが」
エルジュがその武器の攻撃力を聞くと、ナルケルは「10」だと答えた。
ナルケルは装備はなるべく整えたほうがいい、と微笑みをかえした。
「お願いがあります。そのナイフを10本ほど入手してください」
「まあ安いから、どうってこたぁないが。どうしようってんだ?」
「それはナルケルさんが所持しておいて下さい。そしてゴブリンキングの出現する森まで同行してください」
おっと、弱い敵でサクサク行くんじゃなかったのかと。
ナルケルの表情が曇る。
さすがに、ゴブリンキングは戦闘経験のないエルジュには荷が重いだろう。
「なに!? 奴はそんな初歩的な武器じゃ俺でも骨が折れるぜ!」
「ゴブリンキングのHPはどれぐらいですか?」
「そりゃ俺よりかは低めだが、それでも550はあるぞ。防御力も非常に高い。レベルに見合う装備をするのが冒険者の基礎だ。俺の腕を試したいのか?」
「いえいえ、ナルケルさんが強いのは知ってますよ。酒場通い5年生ですから」
「そうか……」
それなら段取りぐらいは一応聞かせてほしい。
ナルケルでもキングは苦戦する可能性がある魔物ランクだという。
エルジュは真顔を見せ、真摯に向き合う態度を取った。
「オレのスキルを試したいのです。それを見てもらいたいので庇いながらの戦いですが頼めますか? 回復の陣は張りますので引き続き薬草の投入もお願いします」
うむ、とナルケルは頷いた。
「俺は大丈夫だが、防具なしのお前が危なくなったらすぐ棄権する。その条件でいいな?」
エルジュのスキルが脅威なのは理解するが、彼が弱すぎて敵が強すぎるので途中リタイヤすることも条件に加えると主張するナルケルの判断は賢明だ。
「無茶をさせてお前に大けがを負わせては、領主様にお叱りを受けちまう!」
「レオのオヤジさんか。その時はオレが庇うから!」
「ふん、言うてくれるな。では店屋で用意してくるから、街の出口で待ってろ」
「はい、よろしくです!」
ナルケルは酒場のカウンターへ足を運び、ランブルにPTの編成を伝えた。
ナルケルの戦士としてのキャリアで申請が通った。
晴れてエルジュはナルケルのPTの一員となって、冒険に出かける許可が出た。
二人は酒場を後にすると手筈通りにことを進めるために二手に分かれた。
やがて街の出入り口で待っていたエルジュとナルケルは合流し、目当ての森に足を運んで行った。