第3話:沈黙なき召集(コード・サルベイジα13)
——記録時間:UTC残暦Δ-2042年、43日目。
——通信分類:最高機密/連合監視非通知モード
——観測拠点:クロノス=リンク社・軌道端末群 No.07 “スレッドガイア”
「……確認されたのか」
「はい。JDG-013のシグナル、確度92%。位置座標は惑星《デトリス=ライン》、南緯Eバンド域」
「随分と……面倒な場所だな」
クロノス=リンク社、戦術戦略局。通信室の奥、青白いホログラムに照らされた男の目が、僅かに揺れた。
「処分済みのはずだぞ。コードX搭載個体……あの《断罪機構》が」
「おそらくは自律制御下での再起動。断片的ですが、機体AIの応答ログも検出されています」
「……再起動“した”んじゃない。“された”んだ。誰かが、火に息を吹きかけた」
数秒の沈黙。次の瞬間、命令が下される。
「即時対応。機密レベルで降下部隊を組成しろ。表向きには“傭兵依頼コード”を発行だ」
——その命令は、他の企業にもほぼ同時に届いていた。
◆《メルカバ重機工業》は重装型機体を中心とした“回収支援部隊”を準備。
◆《エン=フォージ財団》はAI型傭兵ユニットを含む混成部隊を構築。
◆《コードパージ部隊(R.E.M.)》には《対・旧断罪機構》専用プロト機の実戦運用許可が下りる。
そして、全企業が一斉に、辺境を漂う無数のフリー傭兵たちへ《共通依頼コード》を発信した。
任務名:【サルベイジ任務 α13】
概要:惑星デトリス=ラインにおける旧世代兵器回収/脅威排除
報酬:基礎契約額+成果報酬(企業共通規定)
備考:限定期間内任務。帰属義務なし。参加資格自由
ーー「全ての傭兵たちへ」
誘い文句は、常に同じだった。
この依頼に応じれば、生きて帰れば、報酬もパーツも名誉も手に入る。
だが、応じた者の多くは知っている。“αコード”がついた依頼の先には、碌なものがないと。
◆◆◆
その頃。デトリス=ライン。アッシュフォールの街角。
「…それで、今企業がどう動いているか探って欲しいと……簡単に言ってくれる…」
「やはり難しいか…」
「まぁ探れるだけ探ってみるよ、だけど今回は相手が相手だからな…、いつもより弾んでおくれよ?」
人通りの少ないこの細道は内緒話をするには最適だ、無論誰が聞いてるかわからないから警戒は怠らないが。
間違いないなく企業は動き出す、それだけあの機体は特殊なんだ。
現在、オーバーレッドはバンド域にあるもう一つの格納庫に隠してあるが、見つかるのも時間の問題だ。
情報屋と別れ街の酒場、その場にいる傭兵が持つ端末に同時に通知が入る。
企業からの共通任務だ、だが重要なのはそこではない。
「……α13」
コード“13”は、かつての彼の機体番号──《JDG-013》。
それは、ただの偶然か。あるいは、誰かが意図的にその番号を使用しているのか。
背後で傭兵たちがざわつく。誰もが新たな戦争の匂いに気づいている。
スレッドは静かにコートの襟を立て、通りを去った。
灰の上に、重い足音だけを残して。
火種は、すでに各地に撒かれた。
問題は、それに誰が火を点けるかだけだ。